「ねぇ、杏ちゃん」
「んー?」
「ボクが杏ちゃんに、声をかけた理由分かる?」

あー、あの時のことね。あの時は、ビックリしたなぁ。

まさかイケメンくんに、声かけられるなんて思ってもいなかったから。

それにしても、スゴイ出会いだったよなぁ。こんなことってあるんだね。

「たまたま、わたしがいたからでしょ?」
「違うよっ‼︎」

えっ?違うの…?でもわたし、たまたま通ったのよ?

「ボク、ほんとに杏ちゃんのことタイプだったの」
「いやいやいや、そんなのあり得ないって‼︎わたしもう三十路越えなんだよ⁉︎」
「年なんて、関係ないもん‼︎じゃぁ、杏ちゃんはオトコノヒトの年聞いて好きになるの⁉︎」
「いや、それはさぁ…」

確かに年聞いて、じゃぁ好きになろう‼︎ってなるもんじゃないけどさ…。

でもやっぱり、かなり下だと上としては躊躇するじゃないっ。

「お話してみて、もっと好意持ったし。それって、普通のことでしょ?」
「う、うん…。そうだけど、さ…」

そうだよね、それって普通のことなんだよね、うん。

「まぁ、いいや。杏ちゃんが誰を選ぼうが、ボクは杏ちゃんが好きだから。ボクを選んでもらえるように、頑張るだけ」
「眞一郎…」

なんかこう、笑顔で言われると何も言えないよね…。

ダメ、とも言えないし…。好きになるのは自由だしね…。

「そろそろ戻らないと、怒られちゃうかなっ」
「あ、うん。じゃぁ、戻ろうか」

わたしがクルリと、眞一郎に背中を向けた時、眞一郎が『杏ちゃん‼︎』と呼んだ


その声に眞一郎のほうを振り向けば…。

「……っ‼︎」
「あおちゃんばっかり、ズルイよ」

まさかの、眞一郎にまでクチビルを奪われてしまった。

「ほらー、早くぅ‼︎」

眞一郎はペロッと舌を出して、はにかんでいて。

その姿に、キュンときてしまったことは、わたしだけの秘密。