わたし一人が、あたふたしてると碧都が鼻で笑った。

「ただ、キスしただけだろうが」

それが問題なんだってばー‼︎分かれよ、このアホ‼︎

「ズルイよー‼︎あおちゃんばっかりー‼︎」
「ホンマや‼︎みんなの杏ちゃんやのに‼︎」

眞一郎と楓が、ワァワァと騒ぐ中、尚樹だけはずっと黙っていた。

「なおちゃん、どうしたのー?」
「せやせや‼︎なーちゃんも、あーちゃんに言ってやりぃな‼︎」

あはっ、やっぱり“尚樹”は“なーちゃん”なのね。

そんな、なーちゃんはずっと黙っていたんだけど、わたしを真っ直ぐと見つめ、こう聞いた。

「ねぇ、杏」
「は、はい」

なにを言われるんだろう、とドキドキする、わたしの心の臓。

「杏が、せがんだんじゃないの」
「へっ⁉︎」
「だから。杏が碧都に、キスのおねだりしたんじゃないの」
「んなことするかー‼︎」

どうして、わたしが碧都におねだり。しかも“キス”の、おねだりをしなくちゃいけないのよ‼︎

わたしがそんなオンナに見えたわけ⁉︎まったく、失礼しちゃうんだから‼︎

「じゃぁ…。碧都から、ってこと」
「そ、そうよ。わたしが了承してないのに、勝手にね‼︎」
「へぇ…」

え、それだけ?“へぇ”で終わるようなことなの⁉︎

尚樹は、もうわたしに興味はないらしく、碧都に視線を送った。

「んだよ」
「いーや。別に」

不機嫌そうな碧都に、含み笑いをする尚樹。

その様子を、眞一郎と楓は見ていて、わたしもドキドキしながら、二人を見守った。