不意に泣きたい気持ちになって、放送室までの道を遠回りした。授業中の廊下はすごく静かで、居心地は悪くない。

覚えた音が頭から離れない。

怖い話を忘れたいのに忘れられない。

友達がいた時は、すぐに相手が忘れてしまうような約束もきちんと残っていた。

もう、顔すら思い出せないのに。

みんな忘れていくのに、あたしだけが置いてけぼりをくらった気がして。そんな言葉鵜呑みにしない、と何度誓っただろう。

それでも、期待してしまう。

泣いていた。グズグズと。

放送室の扉の前に人の姿。


「大丈夫? 泣く程痛い?」


優しい声は耳を滑って入ってくる。
それを拒否する術を知らない。

彼は綺麗な顔で心配げに覗き込んでくる。

涙はもう止まっていた。