ネクタイは同じ学年を示しているが、見たことがない気がした。
大事そうに抱えた本にはあまり水はかかっていない。

「あ、ごめん」

我ながら呑気な謝り方だと思った。でも反省していないわけではない。

凄まじかった威圧感が消えて、顔を窺う。きょとんとした表情。

二重人格かと、一瞬思った。

出しっぱなしになっている水を止めに蛇口まで行く。タオルでも差し出したい所だが、そんなものを持ち歩いているわけがない。

教室に行ったら替えのジャージを貸せる、と思って振り向くとそこに姿は無かった。

グラウンドの方を見てもいない。校舎に帰ってしまったのだろうか。

幻覚ではない、というのはアスファルトにある水の染みが彼女のところだけ綺麗に無かったから。