グランドピアノの前
シーンとした音楽室の中、ひとつ深呼吸して、俺はある曲を弾き始めた。
メンデルスゾーン『春の歌』
ある日の放課後
俺がこの曲を弾いていると
「すごーい!!仁くんが弾いてたんだ〜」
ドロドロの陸上ジャージ姿のままの紗英がドアの前で目をパチクリさせて立っていた。
「練習してたら聞こえてきたから誰が弾いてるんだろう〜?って気になって見に来ちゃった。
超すごいねぇーまさか仁くんとは…
あっ!!
何気に同じクラスだけどちゃんと話すの初めてだね」
そう言って
ニコッと笑った紗英の顔を今でもまだはっきり覚えてる。
これが
俺らが仲良くなったきっかけ。
この曲を紗英は本当に気にいったみたいで、わざわざ自分でCDまで買って聞いてたし
誕生日の時にも、ちょっとアレンジしたりしてこの曲を弾いてあげた。
思い出がたくさん詰まりすぎた大切な曲。
どんな言葉よりもメッセージがあって、気持ちも伝わるはず。
紗英に届くかわからないけど、今日はどうしてもこの曲が弾きたかった。
今では俺も大好きな曲だからー…