「…初めてだ。」
「え?」
一人で納得していると、
部長がぼそっと、そう呟いた。
…きっとここに、紗耶香さんが
いるんだ。
部長が悲しそうな顔をしているんじゃないかと思い、部長の顔をそっと覗くと、
悲しそうな顔をした部長はなくて、
どこか懐かしげに目を細めた。
…熱しにくいけど冷めにくい。
そんな部長のことだから、きっと
泣いちゃうんだと思ってたけど…
「…初めて、ここにきた。」
「え?…今まで紗耶香に会いに来なかったんですか?」
私がそう返すと部長は一瞬、驚いた顔をして、すっと目を細め微笑んだ。
「紗耶香だって、わかってるんだな。
お前にはなんでもお見通しだな。」
「はい、部長のことですから。」
私がそう言うと部長は嬉しそうに笑って
“俺は愛されてるな”と言った。
…無理して笑ってる感じは無いかな…
よかった。
ほっと胸を撫で下ろし、
さっきの部長の言葉に返答をする。
「…紗耶香さんに、会いに来なかったんですか?」
「ああ。場所は親御さんから聞いてたんだが、申し訳ないし、どんな顔して
会いに行けばいいかわからずに、
それに、ここに来たら泣いてしまいそうだったから。
…以前の俺なら。」