「あー、もう!だから、
好きだって言ったんだ!一回で聞き取れ
馬鹿!」
「す、すみません!?」
急に顔をあげ、大声でそう言った部長に
つられ、私も思わず声をあげる。
っていうか、今、
部長すごいこと言わなかった…?
好きだって叫んだ気が…
「ぶ、部長?あの、今…」
「じゃあ、行くか!いつまでも
ここに停車してたら迷惑だろうし!」
普段、好きだとか愛してるだとか、
あまり言わない主義の部長。
そんな風に素直に言ってくれるのは
めずらしくて、嬉しくて、もう一度でいいから聞きたいと思い、部長に声をかけた瞬間、部長はわざとらしく大声で
真っ赤な顔をしてそう言い、めいいっぱいアクセルを踏んだ。
…うーん、残念。
やっぱりダメか。
もう一度好きが聞けないことに肩を
おとす私をよそに、
赤くなった顔を隠すように右手で口元を
覆い、左手でハンドルを操作する部長。
なにも無かったように
運転してる…。
ずるい、ほんとに部長はいつだって、
ずるい。
私の心を意図も簡単に乱しては
いつも通りの仏頂面に戻る。