慌てふためく私の耳に入ってきたのは
無機質な機械音。

それがインターホンの音だと気づくのに
数秒かかった。



え、待って。
部長もう来ちゃった!?


慌てて駆け出し、インターホンのモニターを覗いた。
するとそこには黒いジャケットを着た
部長がいた。


「あ、あの、すみません!
もう少し待ってくれません!?
その、まだ準備が…」


インターホンの通話ボタンを押し、
慌ててそう言った。


「わかった。
ゆっくりでいいからな。
準備ができたら、出てきてくれ」


私の声色で慌てているのを察したのか、
部長はインターホンの向こうで
ふっと小さく微笑み、そう言った。

そんな何気ない仕草にも、
壁を感じてしまう自分がいる。
本当に部長は私のことを女として
見てくれているのか。
もしかしたら、妹のようにしか思われていないのではないか。
そんなことが頭のなかでループする。


いや、そんなこと考えたって仕方ない。
…やめやめ!
落ち込んで自虐的になってる場合じゃない。
…とりあえず、準備しなきゃ!