音楽室に戻った時には、すでに桐谷先輩の姿はなかった。

まだいた茉莉花先輩は、俺に気づいてにこっとした。

「初めての部活、どうだった?」

「大変だったけど、楽しかったです」

「ほんとに大変なのはこれからだからねーっ」

先輩はいたずらっぽく笑った。

「でも、藍ちゃんの腕は確かだから。だって、藍ちゃんのお母さんは……」

「……え?」

「やだ、もうこんな時間。学校閉まっちゃうから帰ろう」

何を言いかけたんだ?

ひっかかったけど、時間がないのは事実だ。

先輩の声に背中を押されるように、俺は音楽室を出た。