次の日曜日、私は気晴らしにショッピングに出かけた。
特に当てはないものの、ブラブラと店を回ってお気に入りを見つけるのが楽しくて、何件も店を回って歩いた。
すっかり落葉した街路樹の並木道を歩いていると、向こうから今一番会いたくない人物が歩いて来た。
この間ひまわり堂で見た女性だ。
近くまでくると彼女もこちらに気が付いた。
「あら、雅巳の所にいた子ね。」
余裕の笑顔が心に痛い。
「こんにちは。」
顔が引きつりそうになりながらもなんとか笑顔で返す。
「せっかくだから少しお話しない?ここじゃなんだから、そこのカフェなんてどうかしら?」
私には話したいことなんてないのだが、有無を言わせぬ彼女の態度に嫌々ながらも従うしかなかった。
「わかりました。」
かくしてわたしと彼女はカフェで向かい合ってお茶をする羽目になってしまった。
彼女は朝倉美鈴というらしい。
私はコーヒー、美鈴さんは紅茶を注文したが、優雅にティースプーンを操る姿に彼女の育ちの良さがうかがえた。
「雅巳とはあのお店がオープンした頃からの付き合いなの。お客として通っているうちにそういう関係になることもあるでしょう…?」
「はぁ…」
コーヒーをすすりながら曖昧に返事をする。
「雅巳は優しい人だから、よく勘違いされるのよね。あなたも誤解してるんじゃないかと思って。」
「誤解…ですか…?」
「そう。自分の事を好きなんじゃないか…とかね?」
ちらりと私を見るその目は、私の物に手を出すな、と言っているようだった。
「そんな…私はただの…お客ですから…」
何でこんな事を言わなければいけないのか…。
美鈴さんが彼女だと言うのなら、わざわざ私に牽制する必要なんてないだろうに…。
何だか凄く惨めな気分だった。
「そうよねぇ!わかってるんなら良かったわぁ!」
勝ち誇ったように笑う美鈴さん。
「私ね、そろそろ結婚も考えてるの。雅巳も私もいい歳だし、うちの父に言えばあんな小さな店じゃなくて都心にもっと大きな店も出せるわ。私ならたくさん雅巳の力になれると思うの。あなたよりずっとね。」
何故そこに私が引き合いに出されるのか…いい加減うんざりしながらも、一つひっかかる事があった。
「結婚はお二人の問題なので私が口を出すことはありません。けれど、ひまわり堂は…雅巳さんがお店を大事にしている事は私も知っています。自分の力で出したお店だからこそ、愛着も誇りも持っているって雅巳さん言ってました。それを否定するみたいな言い方しないでください。雅巳さんだって好きな人には一番理解欲しい事なんじゃないんですか?」
「その通りだよ。」
突然横から声がした。見上げるとそこには雅巳さんが立っていた。
「雅巳、あなた今の聞いて…?」
美鈴さんが口を押さえて蒼白になっている。
「美鈴、誰と誰が結婚するって?」
ジロリと睨まれ美鈴さんが涙目になる。
「だって…私はあなたを愛してるのよ…?」
「愛してたら嘘をついても良いのか?俺はちゃんと断ったはずだぞ。」
訳がわからず、ポカンとしてしまう。
嘘…?
何処から何処まで…?
はぁっと溜め息をつきながら雅巳さんがこちらを見た。
「ごめんね、由香ちゃん。こんな事に巻き込んで。時間が空いたからコーヒー飲みに来たら2人が入ってくるからびっくりしたよ。」
「いいえ…、って言うか何がどうなってるんですか?」
「俺は美鈴とは付き合ってない。勿論、結婚の予定もない。」
雅巳さんのきっぱりとした口調に、美鈴さんが顔を歪める。
「詳しい事は後でちゃんと話させて。まずは、美鈴を送ってくる。どうせどっかで運転手待たせてるんだろ?」
美鈴さんを強引に立たせると、雅巳さんが引っ張るようにして連れて行こうとした。
「何よ!その子ばっかり特別扱い!?大事にされていい気になってんじゃないわよ!!」
急に矛先を向けられびっくりする。
美鈴さんは雅巳さんの手を振り払うと一人で走って出て行った。
「えっと…?」
雅巳さんと目を見合わせる。
「こっち来ても良い?」
「はい…。」
雅巳さんがコーヒーと伝票を持って来て、さっきまで美鈴さんが座って居たところに座る。
「さて、何から話そうか。」
美鈴さんはお店がオープンした時に駅でチラシを配ったのをきっかけに来てくれたお客さんらしい。
同い年ということもあり話も合って、お店に来てくれる以外でも食事に行くこともあったらしい。
「俺は友人として付き合っていたつもりだったんだけどね。この間最初に会った時に一目惚れしたんだって迫られた。」
雅巳さんが苦笑いする。
「でも俺は大事に想ってる子がいるからって断ったんだよ。その子が俺とうまくいかなかったら振り向いてもらえるとでも思ったのかな。」
雅巳さんと美鈴さんの関係はわかった。
けれど、そこに何で私が巻き込まれたんだろう?
?が飛ぶ私を雅巳さんはジッと見つめた。
「ここから先はまた今度。そろそろ戻らないと。俺も時間がある時にちゃんと言いたいし。」
ポンポンと頭を叩かれる。
先に出ていく雅巳さんを追いかけると、既に私達の分も会計を済ませてくれていた。
「あの、コーヒー代。」
「いいよ、今日のお詫び。」
雅巳さんはにっこり笑ってパタパタと財布を振って見せた。
特に当てはないものの、ブラブラと店を回ってお気に入りを見つけるのが楽しくて、何件も店を回って歩いた。
すっかり落葉した街路樹の並木道を歩いていると、向こうから今一番会いたくない人物が歩いて来た。
この間ひまわり堂で見た女性だ。
近くまでくると彼女もこちらに気が付いた。
「あら、雅巳の所にいた子ね。」
余裕の笑顔が心に痛い。
「こんにちは。」
顔が引きつりそうになりながらもなんとか笑顔で返す。
「せっかくだから少しお話しない?ここじゃなんだから、そこのカフェなんてどうかしら?」
私には話したいことなんてないのだが、有無を言わせぬ彼女の態度に嫌々ながらも従うしかなかった。
「わかりました。」
かくしてわたしと彼女はカフェで向かい合ってお茶をする羽目になってしまった。
彼女は朝倉美鈴というらしい。
私はコーヒー、美鈴さんは紅茶を注文したが、優雅にティースプーンを操る姿に彼女の育ちの良さがうかがえた。
「雅巳とはあのお店がオープンした頃からの付き合いなの。お客として通っているうちにそういう関係になることもあるでしょう…?」
「はぁ…」
コーヒーをすすりながら曖昧に返事をする。
「雅巳は優しい人だから、よく勘違いされるのよね。あなたも誤解してるんじゃないかと思って。」
「誤解…ですか…?」
「そう。自分の事を好きなんじゃないか…とかね?」
ちらりと私を見るその目は、私の物に手を出すな、と言っているようだった。
「そんな…私はただの…お客ですから…」
何でこんな事を言わなければいけないのか…。
美鈴さんが彼女だと言うのなら、わざわざ私に牽制する必要なんてないだろうに…。
何だか凄く惨めな気分だった。
「そうよねぇ!わかってるんなら良かったわぁ!」
勝ち誇ったように笑う美鈴さん。
「私ね、そろそろ結婚も考えてるの。雅巳も私もいい歳だし、うちの父に言えばあんな小さな店じゃなくて都心にもっと大きな店も出せるわ。私ならたくさん雅巳の力になれると思うの。あなたよりずっとね。」
何故そこに私が引き合いに出されるのか…いい加減うんざりしながらも、一つひっかかる事があった。
「結婚はお二人の問題なので私が口を出すことはありません。けれど、ひまわり堂は…雅巳さんがお店を大事にしている事は私も知っています。自分の力で出したお店だからこそ、愛着も誇りも持っているって雅巳さん言ってました。それを否定するみたいな言い方しないでください。雅巳さんだって好きな人には一番理解欲しい事なんじゃないんですか?」
「その通りだよ。」
突然横から声がした。見上げるとそこには雅巳さんが立っていた。
「雅巳、あなた今の聞いて…?」
美鈴さんが口を押さえて蒼白になっている。
「美鈴、誰と誰が結婚するって?」
ジロリと睨まれ美鈴さんが涙目になる。
「だって…私はあなたを愛してるのよ…?」
「愛してたら嘘をついても良いのか?俺はちゃんと断ったはずだぞ。」
訳がわからず、ポカンとしてしまう。
嘘…?
何処から何処まで…?
はぁっと溜め息をつきながら雅巳さんがこちらを見た。
「ごめんね、由香ちゃん。こんな事に巻き込んで。時間が空いたからコーヒー飲みに来たら2人が入ってくるからびっくりしたよ。」
「いいえ…、って言うか何がどうなってるんですか?」
「俺は美鈴とは付き合ってない。勿論、結婚の予定もない。」
雅巳さんのきっぱりとした口調に、美鈴さんが顔を歪める。
「詳しい事は後でちゃんと話させて。まずは、美鈴を送ってくる。どうせどっかで運転手待たせてるんだろ?」
美鈴さんを強引に立たせると、雅巳さんが引っ張るようにして連れて行こうとした。
「何よ!その子ばっかり特別扱い!?大事にされていい気になってんじゃないわよ!!」
急に矛先を向けられびっくりする。
美鈴さんは雅巳さんの手を振り払うと一人で走って出て行った。
「えっと…?」
雅巳さんと目を見合わせる。
「こっち来ても良い?」
「はい…。」
雅巳さんがコーヒーと伝票を持って来て、さっきまで美鈴さんが座って居たところに座る。
「さて、何から話そうか。」
美鈴さんはお店がオープンした時に駅でチラシを配ったのをきっかけに来てくれたお客さんらしい。
同い年ということもあり話も合って、お店に来てくれる以外でも食事に行くこともあったらしい。
「俺は友人として付き合っていたつもりだったんだけどね。この間最初に会った時に一目惚れしたんだって迫られた。」
雅巳さんが苦笑いする。
「でも俺は大事に想ってる子がいるからって断ったんだよ。その子が俺とうまくいかなかったら振り向いてもらえるとでも思ったのかな。」
雅巳さんと美鈴さんの関係はわかった。
けれど、そこに何で私が巻き込まれたんだろう?
?が飛ぶ私を雅巳さんはジッと見つめた。
「ここから先はまた今度。そろそろ戻らないと。俺も時間がある時にちゃんと言いたいし。」
ポンポンと頭を叩かれる。
先に出ていく雅巳さんを追いかけると、既に私達の分も会計を済ませてくれていた。
「あの、コーヒー代。」
「いいよ、今日のお詫び。」
雅巳さんはにっこり笑ってパタパタと財布を振って見せた。