目を覚ますと、雅巳さんに抱え込まれるように腕を回されていた。

目の前に見えるのは裸の胸板。
自分自身も何も身に付けていない。
雅巳さんと身体を繋げた後、余韻に浸りながら眠ってしまったらしい。

昨日の事を思い出して幸せを噛みしめていると、雅巳さんが身動ぎをした。

「由香ちゃん…?起きた?」

腕を緩められ、ようやく雅巳さんの顔が見えた。
まだ少し眠そうな雅巳さんが可愛い。

「はい。おはようございます。」

返事をすると、再び抱きしめられた。

「ん~、おはよ~。」

チュッとおでこにキスをされる。

いつもは見られない甘えた雅巳さん。
目を閉じたまま優しく抱えられ、大事にされてるな~と幸せになる。


 しばらくそうして微睡んでいると、不意にお腹がグゥッと鳴ってしまった。

「~っ!!」

雅巳さんにももちろん聴こえたらしく、クックックと肩を揺らしている。もう、最悪だ…。

「シャワー浴びておいで、その間に飯作っておくから。」

笑いをこらえて言う雅巳さんに、反論も出来ない。

「それとも、一緒に入る?」

ニヤリと悪戯な笑みを向けられ、慌てて首を振る。

「いっいいです!お先に借りますっ」

服をかき集めて急いでお風呂へと向かった。



 シャワーを浴びて出てくると、テーブルにサラダと目玉焼きが用意されていた。

タイミングよくチンとトーストの焼き上がる音もする。

「簡単なものだけど。」

コーヒーカップを手に雅巳さんがキッチンからやってくる。

「いいえ、充分です。むしろ私が作るよりちゃんとしてる…」

「そう?」

2人で向かい合わせに座って御飯を食べる。

目玉焼きは私の好きな半熟に仕上がっている。

食べ物の好みが合ったようで嬉しくなる。



「今日なんだけど。」

「はい?」

「どこか行きたいところはある?」

パンをかじりながら雅巳さんが聞いてくる。

「お誕生日だし、好きな所へ連れてってあげるよ。」

昨日お店にclosedの看板を出して来たのは、自分と一緒にいてくれる為だったのだとわかり、雅巳さんに飛び付きたくなってしまった。

「雅巳さん、大好きですっ」

「うん。俺も。」

柔らかく微笑まれまたしても幸せでいっぱいになる。

「じゃあ…、水族館!」

「了解。お姫様。」



 一旦私のアパートに寄ってもらい着替えを済ませた後、水族館へと向かった。

色とりどりの魚の泳ぐ水槽の前を手を繋いで歩く。

「嬉しい。何年振りだろう。」

はしゃぐ私を温かく見つめてくる眼差しに、少し心配になって尋ねてみる。

「…はしゃぎすぎ?」

「そんなことないよ、喜んでもらえて嬉しい。」

雅巳さんの返事にホッとしていると、イルカのショーの開演のアナウンスが入る。

「イルカのショー、見に行こっか。」

「はいっ!」

雅巳さんに手を引かれ、屋外のイルカプールへと向かった。



「凄かったー!」

ショーが終わっても、まだドキドキする胸を押さえながら興奮気味に話す。

「リズムが良かったですよね!イルカの動きと音楽が凄くよく合ってて!私、こんな凄いショー初めて見ました!」

「俺も。あれは凄かったな。」

2人で顔を見合わせ笑い合う。



楽しい時間はあっという間で、気が付くともう日が傾き始めていた。



水族館を出て、隣にある公園を歩く。

海を眺める向きにベンチが置かれていた。

「座ろうか。」

雅巳さんに促され、ベンチに腰を降ろす。

「今日は、あ…昨日からか。凄く楽しかったです。」

私がそう言うと、雅巳さんはフワッと笑い返して私の手を取った。まるで騎士がお姫様にするように…。

「これから先も、由香ちゃんのお誕生日を祝わせてくれる?」

手を取られたままじっと見つめて来る雅巳さんにドキドキしながらも、私ははっきりと答えた。

「もちろんです。」

にっこりと笑って見せた私の薬指に、雅巳さんはスッと何かをはめた。

それは、薄いピンク色のキラキラと光を反射して輝く石の付いた指輪。

「これって…」

「気が早いとは思うんだけど、誕生日プレゼントはやっぱりこれかなって思って。」

照れたように笑う雅巳さんに、首を振りながら寄りかかる。
「凄く、凄く嬉しいです。」

「由香ちゃんは俺にとって向日葵みたいな存在なんだ。いつもその笑顔に癒されてる。俺の手で、ずっとその笑顔を守りたいって思ったんだよ。」

優しく頭に手を添えながら話す雅巳さんの声が、触れた体からも響いて来て心地よい。
この人と、ずっと共に在りたいと心から思えた。

「私が向日葵なら、お日様は雅巳さんです。雅巳さんの暖かい日だまりの中だから、私はいつも笑っていられるんですよ。」

そう答えると、雅巳さんは嬉しそうに笑って私の頬に手を添えた。

夕暮れに染まった空の下、私達は甘い甘いキスをした。

~end~