目を見てしっかり言葉にして、ようやく伝わったことが分かった。

「してるよ。お前が知らねえだけで。今日だって走って帰って来た。仕事からの途中にお前のアパート通り過ぎたけど、何日も風呂入ってねぇような汚ねぇ恰好で行くのは嫌だったし、明日はお前休みだからと思って。ビールと一緒に酎ハイ入れといたんだよ。リンゴのなら飲めるって言ってたろ。キンキンに冷やした方が飲みやすいと思ったんだよ」

 誰もいないキッチンの隅で静かに扉を閉ざす、冷凍室を見つめた。

「…………でも、たまにはうち来てよ。夜出歩くの怖いし」

「……言うの嫌だったんだけど。お前んちのアパートの下のおっさん、盗聴で1回厳重注意受けてるんだよ」

「えっ!?!?」

 住人の顔を思い出せないくらい、面識はない。

「今はやってねえかもしんねえけど、そういうの気になりだしたら、俺が仕事でいねぇ時とか不安だろ。だからあえて黙っといたんだけどな。お前が怖がると思って」

「…………」

「嫌だろ? 下で声聞かれてると思ったら。それに、どっちかっつーと俺んちのアパートの方が治安がいいし。お前の携帯GPSつけてるから何かあってもすぐに分かるし」

「えっ、GPS? そんなのついてるの?」

「まあ、オプション的なあれでだな。携帯によってはつけられるんだよ。でまあ、俺の携帯も新しいからな。そういうことだよ。何かあっても追跡できるようにって、危機管理。刑事なんだし、当然だろ?」

 彼自身もよく知らないのかなんなのか、適当に答えていることがすぐに分かる。

「…………そうなんだね……」

 だけど、知らないところで、彼がこんなにも私のことを考えてくれているという話を少し聞いただけで、自らその太い腰に腕をまわしてしまう。

「な? いつもだらだらしてるかもしんねぇけど、何も考えてねぇわけじゃねえから」

「…………うん……」

「分かれば、よろしい」

 彼は不意に唇にキスを落とす。

 私は、ただ恥ずかしくて、俯いた。

「ねえ、今度はデート行こ。デート。どこでもいいからデート行きたい」