しかしいつもとは違う風景に気付く。[あれ~ここどこだろう?道間違えちゃったかな?]首を傾げ、悩み考えていると[カタン、コトン]と後ろの方から足音が聞こえてくる。[いや~参った参った~この方向音痴は死んでも治らないな~でもやっと見つけた!]そう言うと男はしゃがみ、奈美の頭に手を置く。[おじちゃん誰?]人見知りの激しい奈美が不思議と落ち着いた感じで問いかけると[おじちゃんか~お兄さんって言って欲しかったがまぁ仕方が無い、俺は炎治、そんでこっちとそっちにいるのがギブソンとホワイト]そう炎治が言うと、足元の両脇から小さなクマとウサギのぬいぐるみのようなものが現れる。[かわいい!]とさっきまでの表情とは裏腹に満面の笑みを浮かべる奈美。[ありがとう~!]赤い服をまとったホワイトがニコニコしながらかわいらしい声で答えると[俺様はかっこいいんだぞ!エッへン‼]青い服を着たギブソンが腰に手を当てながら偉そうな素振りを見せる。[まぁ自己紹介はこの辺にして、あまり時間が無いんだ・・・今君は死の淵にいるんだ・・・]少々急いだ感じで炎治は言った。[死の淵?]何を言われているのかさっぱり分からない奈美に対して[詳しく話している時間は無いんだ、簡単に言うとこのままだと君はお母さんといっしょに居られなくなる。命の炎が消えかかっている!君の思いに応えよう!]すべてを見透かしているかのように炎治が虹色の目で答え[不寿を祓いて大寿となす・・・炎豪照輪‼]大きな声と共に炎治の額から眩い光の小さな太陽が出現する。[きれい~あったか~い]奈美は穏やかな顔で両手を広げそう呟くと、太陽は奈美の胸のあたりにゆっくりと入っていき、何かに引っ張られるようにその場から居なくなる。
[な~んだ俺様の出番は無しか~]ギブソンがつまらなそうに口を尖らせそう言うと[子供は無垢だからな~それにしても間に合って良かった]安心した顔で炎治は言った・・・辛さを隠して。[しかし~ここどこだ?帰れない!]顔を俯かせ困った表情を浮かべる炎治に[大丈夫!私は炎治みたいにバカじゃないからね~私にまっかせなさ~い!]少女のようにはしゃぎながらホワイトが飛び跳ねる。[はいはい]と自信なさげに返事をする炎治に[ィヤッホ~!俺様の出番だ!<#%*#^^^€£$]ギブソンが喜びながら何かを唱える。すると掌から透き通った綺麗な水が姿を現し、徐々にゼリー状の小型のボートの形になる。3人がボートに乗ると次はホワイトが何かを唱える。[<>$€£>~>$<$%いっけ~‼][ドォ~ン‼]ジェット機のエンジンのように大きな音を立てて火が噴き出し、ボートはすごい速さで空を飛び、あっという間にオンボロな寺に辿り着く。

その頃、幸はというと会長を顔に着け渦の空間を突き進んでいる。そして奈美が母を思い家を飛び出した直後、車に撥ねられ意識不明の重体となる光景を見せられる。[奈美~‼]娘を思う幸の声が辺りに響く・・・[さっちゃんの望みは聞かんでもわかっておる、娘を助けて欲しいのじゃろう?][私の望みは奈美の幸せ、私はどうなっても構いません‼奈美を、娘を助けて下さい‼]幸は必死の思いで会長に懇願する。[ワシは少々先の事がわかるんじゃ!お主がこのまま死ねば娘も死ぬ事になる、母を思ってな~娘が死ねばお主も生き甲斐を無くし死ぬ事になる、一人を救うには二人とも救わねばならん、二人で一つじゃ、生きたいと願う強い心、娘といっしょに居る事でそう思える、娘もまた同じじゃ、お主達のお互いを思う心があやつを突き動かした!]そう言うと奈美と炎治のやり取りが目の前に広がる。[ワシは天意には逆らう事は出来んが人間界には面白い力を持った者がおるんじゃ、ワシの孫が延命師とかと呼んどる、孫はその者といっしょに仕事しとるんで、さっきメールを送っといたんじゃ~これから行くいうてな、ガッハッハッ~‼] と豪快な会長の笑い声が耳をつんざく。[エッ?何の話?メール?行くってどこに?奈美は助かったんですよね?]分からない事だらけの幸に[さっちゃんはなんも心配せんでいいんじゃ、ワシに会った事が幸運じゃって言ったじゃろう~ガッハッハッ~、お主を転送するのにだいぶ時間がかかるようじゃがのう~な~に、ワシにまかせんしゃい、ガッハッハッ~]会長は自信満々に答える。

それからちょうど7日後・・・
オンボロ寺、地下の一室・・・

辺り一面、機材やらモニター、パソコンがぎっしり詰まったコンピュータルームに眼鏡をかけた一人の小さなおばあさんがキーボードをカタカタと叩きなにかしている姿がある。[万手アタッ~クッ‼]力のこもった声と同時に複数のキーボードを一度に叩いてまさしく万の手があるように・・・[カタカタ・・・カチカチ]という音だけが部屋の中全体を駆け巡る。[もう少しだっひょ~‼]小型マイクに向かってそう言うとコンピュータルームの隣にある転送室に幸が光の柱と共に現れ、その部屋で待ち構えていた炎治がギブソンとホワイトと共に延命の儀を執り行う・・・
幸の死人のような白い肌がみるみる健康的な色に変化していく・・・[ゴホッゴホッ]息を吹き返したかのように激しく咳き込む幸がゆっくり起き上がると炎治は幸の手を取り涼やかな口調でこう言った。[これからは天意に逆らいし刻・・・何が起こるか分からない・・・どう使うかは貴方次第・・・娘の元に帰りな・・・]微笑みを浮かべながらそう炎治が言うと光の柱が幸を優しく包み込む。

[ありがとう・・・延命師・・・さん]幸の目から涙がこぼれ落ち、感謝の嬉し泣き・・・徐々に幸の体が消えてその場所から姿を消す。

[レアモンスターゲットだっひょ~わたいのハードディスクの中にちゃんと入っただっひょ~]喜びの声が辺りを覆う。[トミエっちも物好きだね~そんな気色悪いもん集めてどうするの?]としかめっ面の炎治が聞くと[トップシークレットだっひょ~]意地悪をするかのようにトミエは秘密にする。[教えて~][教えろ~]とホワイトとギブソンが短い手でトミエの頭をポカポカと叩きながら聞くと、壮絶な三つ巴の短手バトルが幕を開け、そんな光景を見て炎治は腹を押さえながら大爆笑をするのだった。[ハッハッハッ~‼]

第一話 延命師 完