「この前、蒼、綺麗な女の人と歩いていたって。
もしかして……」
あたしの馬鹿!
余計な詮索をしても、何の得にもならないのに。
なのに、蒼のことが気になって仕方がない。
「あぁ……」
賢一は低い声で呟いた。
「この前会ったって言ってたな」
なに、それ。
蒼はあたしにはっきり教えてくれなかったのに。
嫌な勘って当たるものなの!?
胸が苦しいよ。
身体が震えて、何だか怖い。
あたしの前にあるのは、とてつもない恐怖。
あたし、どうしてこんなに余裕がないの?
「悪ぃ。しゃべりすぎた」
賢一はそう言って自分の髪をくしゃっとする。
「でも蒼、唯のことも大好きだからさ!」
唯のことも……か。
蒼の一番は、あたしじゃないのかな?
たった一人の大切な人に、あたしはなりたい。