幹部の挨拶を聞き、控え室に移動する俺たち。
結局美味しいものはほとんど食べていない。
これは……
本気で焼き肉を奪うしかないと思った。
そんな俺の横で、
「わっ!弦が切れてる!」
叫び声を上げる中山。
「ピックも忘れた!!」
何やってんだよ。
弦の予備を持ち歩くのは基本でしょ。
ピックまで忘れるなんて問題外。
そう出かかった言葉をぐっと飲み込む。
「仕方ないなぁ」
俺はそう言って、自分の予備の弦を中山のギターに張ってあげる。
中山は泣きそうになりながら、俺の手元を見ていた。
そんな中山に、
「焼き肉取ろうね」
笑顔で数枚のピックを渡す。
ピック、多めに持ってきてよかったよ。
中山は真っ赤になって俺を見た。
「中山、泣くぞ?」
後輩たちが騒ぎ立てる。
「中山、戸崎さんにお礼言わないと」
中山が口を開きかけ……
そして口を閉じる。
そして再び出てきた言葉に、俺はただ驚いた。
「戸崎さん!
何ですか、その格好は!
ダサい!
艶を馬鹿にしている!!
あなた、ファンとして失格です!!」
ふ……ファン?
俺、いつからおっさんのファンになったの?
俺はぽかーんと中山を見つめていた。
「中山!」
後輩たちが中山を止める。
そんな中山は、真っ赤になって下を向いた。
「……駄目かな、この格好」
俺は後輩たちに聞く。
後輩たちは噴き出すのを我慢して、
「いいと思いますよ」
そう言っていた。