Fを聴いて始めたギター。
碧に憧れて、がむしゃらに頑張った。
どうしたらこんな難しい曲を、あんなにさらっと歌い上げるのか。
しかも、この超複雑なコードを弾きながら。
だけど、それは戸崎さんの努力の賜物なのだと気付いた。
戸崎さんは何事にもまっすぐで。
……本気になった戸崎さんの集中力は凄い。
「あー、この曲でオタ芸出来るのかな?」
艶さながらの早弾きをしながら首を傾げる戸崎さん。
全くこの人は……
どうしてそんなことが出来るの?
この超難しいメロディーを弾きながら、普通に会話をするなんて。
「オタ芸とか無理ですよ」
そう言った俺に、
「じゃ、曲変える?」
いとも平然という戸崎さん。
「ふざけないで下さいよ!
今まで寝る間も惜しんで練習したんですから!!」
そんなことを言ってしまう俺。
戸崎さんがいるから、足を引っ張ってはいけないと思った。
そして、何よりも嬉しかった。
憧れの戸崎さんと同じ舞台に立てるのが。
だから俺は練習した。
戸崎さんはなおもギターを弾いたまま話し続ける。
「そっか……じゃ、仕方ないね。
ノリ的にもオタ芸は何とかできそうだし」
あくまでもオタ芸は外せないらしい。
戸崎さんの思考回路はどうにかしている。
「あ、あと間奏にドラムソロ入れて、俺らもオタ芸するのはどう?」
「戸崎さん、それって……」
先輩たちも固まっている。
戸崎さんはやっと手を止め、笑顔で俺たちを見た。
いつもの爽やかで、少しいたずらそうなその笑顔。
「それって……
戸崎さんがオタ芸やりたいだけでしょ?」
「バレた?」
「戸崎さん……あなたって人は……」
俺は震えていた。
「あなたって人は……
俺の尊敬するFを、どこまで壊したら気が済むのです!?」
俺は大声で叫んでいた。