「戸崎」
デスクであくびをしていると、北野さんが来た。
俺は慌てて姿勢を正し、返事をする。
「今、モデルハウスから連絡があった。
お前指定のお客様がいるらしい」
その言葉に、
「え?」
思わず北野さんをガン見した。
俺指定のお客様?
俺が碧だと知れ渡ってしまったが、外部まで有名になっているとは思えない。
それに、碧は昔の人だ。
俺が街を歩いていても、今はほとんど声をかけられない。
だから、そのせいではないと思った。
第一、馬鹿と噂された碧に設計を頼むほど愚かな人はいないだろう。
「心当たりはないか?」
「はい……全く……」
首を傾げる俺。
「名前は遠藤優弥様らしい。
もうすぐ事務所に着かれると……」
北野さんがそう言った時……
「蒼!」
聞き慣れた声が聞こえた。
俺の背中を震えが伝った。