「そりゃ、お前が何も言わないから、俺たちも何も言えないよ。
歓迎会であからさまに下手な歌を歌われた時、マジで触れてはいけないことだとみんなで悟った」
そうだったのか。
俺、全然気付かなかった。
ただ、俺はFのことを話題にして、人気者になるのが嫌だっただけ。
俺は普通がいい。
馬鹿でドジなサラリーマンでいいと思っていた。
「すみません……」
北野さんに謝る俺。
そんな俺を見て、北野さんはおかしそうに顔を歪めた。
「戸崎は本当に碧らしくないな。
だけど昔から、碧は馬鹿で甘党で優しいって言われていたよな」
どうして北野さんはそんなことまで知ってるの?
まさか……
まさか……
「この際、ファンだから一足先に言わせて欲しい。
おめでとうと」
「ファン!?」
俺の声は裏返っていた。
「あぁ、ファンだよ」
北野さんは相変わらず楽しそうに笑っている。
「俺と前田課長は大ファンだ。
ライブにも何回も行っている。
それに、後輩集団も。
中山なんて、碧と同じモデルのギターを持っているほど」
「し……失礼します!!」
俺は鞄を抱え、オフィスを飛び出していた。