付き合った。

でも、まだ、不確かな想い。

心の中に芽生えていく、好き。の気持ち。

心から、好き。と言えない、小さなプライド。

「寒いね。」

「ねっ。もう、三月なのにね。」

知っている。

「ほら、手。」

彼女の小さな手。

「うん!!」

彼女の冷たい指。

これから、もっと、もっと、見付けていくよ。

きっと、きっと、変わらない気持ち。

ずっと、ずっと、知っていた気持ち。

「うぅ。」

田舎の街中を歩く途中に、冷たい風が、僕らを、まだ、襲う。

だけど、僕の腕に絡みつく、彼女の細い腕が、寒さ。なんて、忘れさせてくれた。

「パスタ、食べに行こう?」

緩い茶色のパーマが、縦に揺れた。

「あいを太らせて、食べてやる!!」

その笑う仕草を、もっと、好き。と、思うようになっている。

「あいのエッチ。」

レジの前でオーダーを通すのだが、隣りの彼女の左耳に、そんな言葉を呟くと、ゆうくんがね。と、言われる幸せ。

ひっそりとある、小さなパスタ専門の店の前。

「何にする?」

メニューを見て、僕らの後ろに並ぶ女子高生を気にしながら、そして、慌てながらオーダーを通した。

「もう、何でもいいよ。」

『カルボナーラ』と『ペペロンチーノ』みたいな、噛みそうになりそうな言葉を、早口で言った。

お金を先に支払い、あいが楽しみに待つ料理を、窓際の席に座り、体を伸ばした午後の木漏れ日。

「お水、いる?」

セルフサービスだったため、あいが笑って聞いてきた。

「あ~。いいよ。俺が取りに行くよ。」

一度座ったボロボロの椅子を離れ、透明のコップ、二つに水を注ぐ。

僕の目の前を、女の従業員が通り過ぎ、零(こぼ)れてしまいそうになる注いだ水。

冷えた二つのコップを持って、席に戻ると、湯気を出しているパスタが、置かれていた。

右手のコップを、あいの目の前に置くと、ありがとう。と笑って、いただきます。と、フォークとスプーンを構え、幸せそうな顔を見せてくれた。

「俺、箸がいい!!」

変わった癖。と、あいに、笑われた。

再度、席を立ち、箸を手にして戻ってくると、ほんの少し、パスタの湯気の勢いが、消えていた。

「冷めるよ?」

食べてる姿も可愛くて、見とれていた僕を、モグモグしながら笑う彼女。

「知ってるよ。」

あいは、もう…僕の大切な彼女。って、ことくらい。

ペペロンチーノが、少し辛い。って、ことも。

「あーん。」

箸をクルクルして、あいの口元へ、巻かれたパスタを、持っていく。

「あっ…。」

「可愛いなぁ。」

結局、僕の口へ運んだパスタ。

悪戯したいくらいの、この気持ち…。

好き。なんだよね。