ココはとりあえず初課題を保留にして、新たな課題に取り組むことになった。
今日も学校が終わった後に、ひとつ課題を終わらせて来たところだ。
今は疲れてぐっすりと眠っている。
「ココの……きっと、1番足りていないところが、ゆういちゃんの課題で埋まるかと思ったのに」
余計に深めてしまったみたい。と、ユキは呟く。
ココの足りないところ。
それは、自分がひとのためになるということを知らないところ。
自分が人に欲される存在であることを知らないところ。
ココは初課題でゆういちゃんのために必死になった。
ゆういちゃんの気持ちを考えて、ゆういちゃんの願いを叶えるためだけに、全力を尽くした。
必死にしたものが成功し、感謝されれば達成感が得られるはず。
何かをして、感謝されることの温かさを、思い出すはず。
ユキはそうなってくれるよう、願っていた。
しかし。
ゆういちゃんがココに発した言葉は、残念ながら、真逆のものだったのだ。
ポカポカと降り注ぐお日様の光を受け。
体育館内に発される大小、様々な声を子守歌に。
ココはウトウトと眠りに身を浸していた。
今日は月に1度の、学校集会の日である。
授業こそ真面目に聞くココではあるが、学校集会の時間は毎回、お昼寝の時間にしていた。
扉側で暖かい空気を受け、ココがコクリとひときわ大きく揺らした時。
突然、ユキが叫んだ。
「ココっ!!あれ、あの人見て!!」
ユキの姿も声も、他の人達には見えない。
それを頭では分かっていても、ココの心臓はドキリっ、と飛び上がった。
「ちょっ、ちょっと、何!?」
ココが突然上げた声に、隣の男子が驚いて飛び上がるのが目の端に見える。
しかしそんなことには気付かないココは、寝ぼけたままユキの指さす方向を見た。
「……あれ…誰だ。あの、ほら…生徒会の人でしょ?」
「うんっ!そうなの!
でね、ほらあの人の手首っ!!」
手首……?
見えないし…だって、壇上だし。
座ってるあたし達からは見えない。
「ーーーこれで、今日の学校集会を終わります。
3年生は後ろの扉からーーー」
「ほらぁ、見えるったらあれ!」とか何とか尚言うユキと、ぼそぼそ喋っていると、学校集会はすぐに終わった。
「ユキ、行こう」
ココは指定された扉から外に出ようと、ユキに声をかける。
ココにユキの見えたものが見えなかったことにブツブツ文句を言いながら、ユキはココに従った。
「本当にあったのよ、大天使候補生の証」
ユキはまだ言っている。
大天使候補生の証とは、色が付いて行くあのブレスレットである。
「分かったったら。別に信用しないとは言ってないじゃない」
「だーって!絶対、信じてないでしょう!?」
「うっ……と、そんなことは無い、よっ」
「……ふっ、ははははははははははっ!
君たちもうやめてくれよ〜」
クラス人通りの少ない道をわざわざ通って教室に帰っていたココの背後から、突然笑い声が聞こえてきた。
誰だ!?とココとユキは振り返る。
大天使候補をやっていることが、候補生とその関係者以外にバレてはいけないルールは無い。
しかし、バレるとその先に弊害が出て来る為、まず試験に受かることはない。
その事を、ココはユウに嫌と言う程教え込まれていた。