heure de la'nge〜天使の時間〜




「この中に入って、彼女が母と会えるかどうかは、運と縁の問題だからな」


真が時間の中に飛び込もうとするきぃに声を掛ける。


返って来たのは、はぁーいっ!という軽い返事だった。



「…大丈夫なのか」


眉を潜めて言う真に、アイカは真面目に言った。



「大丈夫みたいよ。返事をした瞬間に、淡くきぃの体が光ったから」



つまり、きぃが「運」の力を発したということ。


それを聞いた真は、驚きに満ちたまま、きぃの後を追ったのであった。






「きるちゃん。手、繋ごう?」


ココはそう言って、答えを聞く前にきるの手を取る。


だからと言って、ココが突然フレンドリーになったわけでは無い。


ただ、不安なのだ。



思えば、今までココは意識して「縁」の力を振るったことがない。


初挑戦がこんなにも責任重大な場面だということを、ココは全力で理解したく無かった。






力は発動しているはずだし、大丈夫だとは思っているが、でもやはり予防線は張っておきたかった。


自分の力と、きるときるのお母さんの縁がどうか願い通りに働きますように。







ただただ、そう願い。



ココはきると共に、きぃの後ろから時空へと飛び込んだ。






「ここは…」


「ーー道路、だな」


キョロキョロと見回すココに、真は冷静に返した。


その言葉通り、ふつーの、何処にでもあるよーな、ふっつーーの、公道。


人より車が多いことが、特長といえば、特長だろうか。








「どこにきるちゃんのママがいるの?」


アイカは疑問を投げかける。

それはここに来る為に力を使った、琉やココの心の中にもある疑問だった。



「なん……か、ここの近くにいそうな気がしないでもないんだけど」


ココは「縁」の力を目一杯発動させたが、こんな曖昧な答えしか出せない。


「ココの力も、きぃの力も使ったんだ、ここが全くのハズレの訳が無い。
少し待ってみようぜ」



少し考えた後に、真はこう結論を出し、そのまま道路の端に寄って、一同は何かが起こるのを待つことになったのだった。












長い間待っても何も起こらないと思っているのは、待っている間だけである。



突如として、ことは起こった。





ーーードンッ




ことの始まりは、大きな大きな衝突音。


何が起こるのか、と期待半分、早く起こらないのか、と待っていることに対する飽き半分。


そんな気持ちだったココ達は、何と無くの嫌な予感と共に、衝突音を立てたその場所へと駆けつける。







衝突音は、トラックが軽自動車にぶつかったことによるものだった。



「大丈夫ですかっ!大丈夫ですかぁっ!!??」


焦って叫んでいるのは、トラックに乗っていた運転手のようだ。



運転手の下には、お腹の大きい女の人が気を失って倒れていた。


どうやら、軽自動車に乗っていた女性らしい。




まさか……




そんな思いが、6人の間に走る。





「ーーあっ、もしもしっ!!ーーー」


少し離れた所で、トラックの運転手が、救急車と警察に連絡している。


倒れた女の人の周辺では「なんだ?」という風に、減速していく車もあったが、誰も集まっては来なかった。



「近づいてーーーみる?」


アイカが恐る恐るきるに尋ねる。


きるは5人の予想に反して、しっかりと頷く。




「あの人がたぶん、あたしのお母さん」


きるが震える足を踏み出す瞬間、声が微かに風に乗って5人の耳に届いた。









「あの……」


トントン。


きるは倒れた女の人を優しく叩く。


が、反応は無い。



「どうにかできるだろ?」

真がふてぶてしく、アイカに言った。




「出来るわっ!今からやろうとしてたところよっ!」


カチンと来たアイカは、売り言葉に買い言葉、といった風に返し、ズカズカと女の人の下へ近づき、手をかざす。



柔らかなオレンジ色の光が女の人に降り注いだ瞬間、女の人の瞼が動いた。