heure de la'nge〜天使の時間〜




「じゃあ」


まだなつきが眠っている病室の窓からココはそっと出る。


なつきが目を覚ますところまで待つ必要は無い。


ココの気持ち的には起きたなつきと会いたい。

しかし、なつきが目を覚ませば、医師や、両親など会うには都合の悪い人達とも会うことになってしまうだろう。



だから、今のうちにそっと出て行くことになった。








「ココーーさん。ありがと。それから…ごめんなさい、ひどいこと、言って」



「本当に。そのおかげでココは悩み続けたんだからーーー!!」




と、ユキは盛大に文句を言いたい気分だったけれど。



ココの嬉しそうな、満足そうな表情を見たら、言葉が引っ込んだ。




ずっと気にかかっていたことがやっと、無くなったと。

心の底からほっとして、ゆういの様子で嬉しくなっていると。


よく分かったから。


それなら、それで良い。と、ユキは思わず微笑んでしまうのだった。





.:♪*:・'゜♭.:*・♪'゜。.*#:・'゜.:*♪:・'.:♪


数週間ぶりに、心の底からすっきりして病院から出て来たココを迎え入れたのは。


「まーまー、良い顔して。
やるべきこと、忘れてんじゃ無いでしょうね!?」


「初めましてーーーじゃないよねっ!
こんにちはっ!!月波さんっ」


「ま、とりあえず解決…だな。
良かったーーーと言いたいが、な?」



ココが見たこと無いほど大人数の、しかもかなりうるさい天使達ーー?だった。







「??ーーこれどういう状況なの?」


ココはほぼ見知らぬ人々にガヤガヤと囲まれ、パニックを起こしながらも、やっとこう聞く。


「んーーー、ま。第二次大天使候補生選抜に合格したって状況?」


確実に面白がっているユウはこう言って、余計にココを混乱させる。


「えっ?だってーーあたし、行ってないし。っていうか、忘れてた!!
い、いいい行かなきゃ!天界に」


「まぁ、待て待て。もうお前行かなくて良いんだよ。行ってやらなきゃいけないことは全部終わったんだ」



「えっ、どういうこと!?ねっ、ユウーーー」






さらに詳しく聞き出そうとしたココは、周りで少しのあいだ黙っていた天使達によって遮られる。


「まぁま、良いじゃないの。とりあえず試験をパスしたんだから」


「そうだよね〜〜!!
これからよろしくねっ!??」


「えっ……と、あっ!!アイカっ!」


喋り出した2人の天使の内の1人は、以前おじさんの課題で、大喧嘩を繰り広げるという、特異な体験を共にしたアイカだった。


「あぁ、私のことは覚えてんのね。そ、私は“生”の力で受かったアイカ。
きぃのことは覚えてないみたいね」


アイカが指し示したもう1人の天使に目線を動かす。






「………?」


知らない、とは言えないココは、黙って“きぃ”と呼ばれた女の子を見る。


小柄で童顔な為、小学生に見えるのだが…そんな知り合いいただろうか?



「きぃだよっ!!長田 希夷っ!!」


「…ながた、きい?」

ココはますます持って怪訝な顔をする。



そんな知り合い……いない、はず。








「学校で、同じクラスだって聞いたんだけど……?」


何も言わないココに、困ったような声でこう言うのは、琉だった。


「あっ、琉さんっ!」


「うん、覚えててくれて嬉しいよ。僕は“時”の力。
で?きいちゃんのことは覚えてないと」


気まずそうな顔で、ゆっくりココは頷く。


「うーん、確かに喋ったことはないけどさぁ……」と項垂れるきぃを、ユキが慰めに行った。






「ま、とにかくこの子が“運”のきいちゃん。
でこっちがーーー前にちょっと言ったの覚えてる?」


ココは何のことかと首を傾げる。


「俺の友達に大天使候補生がいるって言った話。ーーーあっ、覚えてる?
その友達が、こいつ。“知”の力、真(まこと)」



「……よろしく」

低めの声が聞こえて来た。


「よ…よろ、しく……」


「おい、ココちゃんびびらせんな。
大丈夫、こいつ慣れればよく喋るし、良いやつだから」


琉の言葉に、ココは笑って頷く。



その時、ここにいつまでいるつもりだ?というユウの声が飛んできた。






「誰かに見られるとものすごい変なやつらに見えるぞ。
俺達は見えないが、お前達は誰にでも見えるんだから」


そう言われて、総勢5名の大天使候補生達は、まだなつきさんの病室から出て来たところにいることに気付いた。


「ばっ、場所変えようっ!!」

という、焦った琉の言葉にココは

「じゃ、近いからうちに!!」

と返していた。







「……何?その顔。自分の思い通りにことが運んで嬉しいの?」

大天使候補生達から離れて翔び始めた時、ユキが笑いながらユウをからかう。


「ばっ、そんなわけ無いだろ!
単純に嬉しいんだ、俺は」


ココがすぐに人の輪に入れたことが。


ユウとユキの心はそっと一致していた。