楽しい時間というのは直ぐに過ぎ去るもので、私たちの関係に特に変化があるわけでもなく。
あっさりと保坂くんは帰っていった。
残ったのは、どこか寂しさの残る孤独感と、せつなさ。
それでも時間は残酷で、あっという間に新しい一週間が始まってしまった。
「おはよう」
「おはようございまーす」
会社に着くと、今日も沙由は元気そうだった。
二人でそつなく仕事をこなしていれば、お昼なんてすぐ。
「なんかやっぱり、月曜日と金曜日は仕事したぞーって感じになりますね」
営業さんは土日も動く事が多いから、どうしても月曜と金曜は事務の作業量が増える。
私としては時間が早く過ぎて有り難いわけだけど。
二人でランチをとりながら、他愛もない話をしていて、ふと思い出した。
「ねえ沙由、ライブとか興味ある?」
「ライブですか?珍しいですね、先輩がそういう話するの」
「ちょっとね」
私は鞄からチケットを二枚取り出すと、沙由に渡した。
「なんかね、彼氏の知り合いがソロライブやるんだって。彼氏は行けないから、お友達とおいでって言われたんだけど」
「えー!こ、このバンド!今地元で超人気あるインディーズバンドですよ!よくチケットありましたね」
「え?沙由詳しいの?」
「詳しいっていうか……え、先輩ホントに知らないで貰っちゃったんですか?ひえー。結構追っかけとか多いらしいですよ」
私は驚いたまま頷くしかできない。
沙由は少々呆れた感じで、でもすぐに笑顔で頷いた。
「いやー、実はですね。沙由の彼氏、大学生でサークルやってるって言ったじゃないですか。音楽サークルなんですけど、実は、掛け持ちでこのバンドのドラマーもやってるんですよー。リーダーは勇吾さんっていってー」
「あ、その勇吾さんから貰ったんだよ」
「え?!ちょっと先輩、勇吾さんと知り合いなんですか?」
「彼氏がね」
「えー!世間狭い!」
沙由は嬉しそうにきゃーきゃーいっている。
私は若干置いていかれながらもなんとかついていこうと頷き返す。
「でも、沙由もこのライブチケット持ってるからなー。多分、VIP席っていうか、同じ席なんで、他に誰か誘って一緒に行きましょうよ」
「誘うっていってもなぁ……」
「沙由の友達誘ってもいいなら、一人行きたいって子いるんですけどねー」
「じゃあ、その子誘ってみる?」
「いいんですか?」
「元々、沙由に断られたら私行かないって言ってあったし」
私の言葉に、沙由はすぐに誰かにメールしていた。
行けるという返事が来たらしく、沙由はまた嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ、来週の土曜日ですね!うわー、先輩とライブとか超楽しみ!嬉しいなー」
「えー、彼氏の雄姿見る為に行くんじゃないの?」
「そうなんですけどー」
そんな会話をしているうちに、昼休みも終わりそうな時間になっていた。
私たちは慌ててレストランを後にすると、午後の仕事を片付ける為に会社に戻った。