翌朝、保坂くんよりも先に目が覚めた私はルリに朝ごはんを与えつつ朝食の準備を始めた。
準備といっても、コーヒーを淹れながら目玉焼きとベーコンを焼いて、レタスとトマトを切って……。
トーストが焼きあがる頃に、保坂くんがのろのろと起き上がってきた。

「おはよう」

テーブルにコーヒーを置くと、保坂くんは目をこすりつつ頷いた。
よくこの低血圧で早朝からの仕事が勤まるものだと、本当にびっくりする。
このギャップも、保坂くんの面白いところではあるんだけど。

「おいしい……」

寝ぼけながらもしっかりとルリを構う事はやめない保坂くんの目の前に、私は朝食を並べていく。

「いただきます」

コーヒーを飲んで頭がすっきりしてきたのか、保坂くんは朝食を食べ始めた。
私も向かいに座ってトーストをかじりつつ、保坂くんをまじまじと見つめる。

こうして見ると、彼は本当にイケメンだ。

彼女の贔屓目を抜きにしても、彼はモテるしかっこいい。
私はお世辞にも美人とは言えない方なので、本当に羨ましい限りだ。

カフェなんかで彼とお茶していて、私がトイレに行っている間に彼が女子高生にナンパされていた……なんてことはザラなのだ。
当然、アルバイトの頃から彼はモテていて、お客さんから連絡先の紙を渡される事も度々あった。
私に代わりに渡してください!ともってきたお客さんもいる。
当然、私が彼女なんですけどとは言えず、一応保坂くんには渡すけど、その連絡先に連絡しているのを見たことは一度もない。

「今もモテるんだろうなぁ……」

昨日、沙由の話を聞いたからだろうか…。
つい、そんな呟きが漏れてしまった。

保坂くんはびっくりした顔で私の顔を見つめてくる。

「わぁ、嫉妬?珍しいね」

本当に驚いたのか、保坂くんが声をあげる。
私は少し頬が熱くなるのを感じつつ、コーヒーを口に含んだ。

「べつに、そういうんじゃないんだけど」

「なーんだ、嫉妬だったら嬉しかったのになぁ」

のんびりと呟く彼を睨みながら、私は吐息を零した。

「だってそうでしょ?薫ちゃんクールだからなぁ……俺がナンパされてても涼しい顔してるし。その度俺ふられるのかなって冷や冷やしてるのに」

「なんでふる必要があるのかな……。まぁ、彼氏がナンパされてて嬉しい女の子はいないと思うんだけど。私だって、人並みにはやきもちくらいやきますし」

ぶっきらぼうに言うと、保坂くんは嬉しそうにルリにすりすりしていた。
なんで私にはしてくれないんだと思いつつも、そんな彼だから私も好きになったんだと思い出す。

「ルリのママは、恥ずかしがりやだねー。かわいいねー」

何かルリと会話を始めた保坂くんを無視しつつ、私は時計に目をやった。
知らない間に時間は10時。
随分とゆっくりした朝食になってしまったようだ。

私は食器を片付けると、着替えとメイクを済ませてしまうことにした。
準備を終えると、保坂くんも支度が終わっていたようだった。

「じゃあ、ぶらぶら街でも歩こうかー」

結局どこに行くかは決まっていないけど、それもいつものこと。
私たちは二人して家を後にすると、恐らく混んでいるであろう街中へ向けて歩き始めた。