相田さんがカフェにやってきたのは、30分程してからだった。
あんなに派手なバンドの作曲とミキシングを担当しているというから、どんな派手な人なのかと思いきや、至って普通のサラリーマン風の男性だった。
清潔感のあるポロシャツにチノパンという姿で現れた相田さんは、焦った様子で店内に入ってくると私たちの姿を見とめ駆け寄ってきた。

「誠二、久しぶり」

「やあ、久しぶり」

二人は短い挨拶を交わすと、電話で事のあらましは聞いていたのか余計な事は差し挟まずに私たちが座るボックス席に腰掛けた。

「それで、勇吾の件だよね?」

神妙な面持ちで、相田さんが言う。
私たちは頷くと、相田さんは困った様に頬を掻きながら吐息を零した。

「実は……明日の夜、会う約束をしているんだ」

その言葉に、沙由が顔を上げ誠二さんが息を飲んだ。

「……まず言っておくけど、周の件は特に何も勇吾から聞いてない。ただ、勇吾が言うにはあんな形でバンドを解散する事になって申し訳なかった、会って一言謝りたいってことだけだ」

「そうですか……」

明らかに落胆した様子の沙由。
私は意を決して口を開いた。

「あの」

静かな店内に、私の声が響く。
ある程度、誠二さんはこの言葉を予期していたのかもしれない。

「明日、私も一緒に連れて行ってはくれませんか」

やっぱり、という顔で誠二さんが私を見る。
でも、ここでこうして雁首揃えていても、私たちには何もわからないし何も出来ない。

「いいけど……君が例の、薫ちゃんだろう?」

同情の色を濃くして、相田さんが言った。
私は少し顔を顰めて、そして頷く。

「……僕はあまりおすすめはしないけど。どうする、誠二」

「正直なところ、俺も。ただ、そうだな。俺と相田と三人で行くなら、いいんじゃないか」

「え……でも、誠二さんお店は?」

私が尋ねると、誠二さんは微笑んだ。

「一日くらい休んだって問題ないさ。それに、もし仮に勇吾がまた何か間違いを犯そうとしているなら、止めてやらないとな。友達だから」

誠二さんの言葉が、重く響く。
私は頷くと、二人に頭を下げた。

「よろしくお願いします」

「僕はどっちにしろ会う予定だったからね、気にしないで」

相田さんが微笑む。
沙由が、弾かれたように顔を上げる。

「あの、私も……」