「ご飯出来てるけど、食べる?」

「食べる食べる」

ルリを床におろしてやりながら、保坂くんが人懐っこい笑顔で頷いた。
夕ご飯も食べずに車を飛ばしてきてくれたのかと嬉しくなりつつ、今急いで作った夕飯を食卓に並べていく。

疲れているだろうと思って、凝った料理は作らなかった。
いっぱい食べられて、栄養があるもの。

しょうが焼きと、かぼちゃの煮物と、保坂くんの好物の豚汁。
それと、母が送ってくれた手作りの漬物。
炊いておいた竹の子の炊き込みご飯も並べると、保坂くんは喜んで食べ始めた。

「おいしいかわからないよ」

「おいしいー」

ニコニコしながら食べてくれるから、私も作り甲斐がある。
普段は一人きりだから一品くらいしか作らないけど、たまにはこうやってたくさん作るのも悪くない。

ルリはさっさと保坂くんの膝の上に陣取って、満足そうに眠っていた。
いつも思うけれど、ルリは保坂くんが来ると大抵彼の膝の上に乗っている気がする。

 粗方食べ終えて満足したのか、やがて保坂くんは笑顔で箸を置いた。

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

温かい緑茶を淹れながら私が声を掛けると、彼はありがとうと言って湯飲みを受け取った。

 こうしてリビングで寛いでいる保坂くんを見ると、接客をしている時のようなキラキラは感じない。
それでも、どこか落ち着いた……お日様の下で日向ぼっこをしているような気持ちよさが私を包む。
そんな雰囲気に私は幸せを感じるし、とても満足してしまうのだ。

「そういえば、今回はいつまで居られるの?」

食器を洗いながら声を掛けると、保坂くんは手帳を確認しながら頬をかいた。

「うん、日曜の夜には戻らないと」

「そっか。相変わらず忙しそうだね」

「そうだね。でも今回は土日に休み貰えたからラッキーだよ」

そう。私が土日が休みだから、どうしても保坂くんが平日に休みをとっても会える時間が限られてしまう。
土日に休みが貰えるなんて、彼の仕事からしたら奇跡に近い。

「明日はどこにいこう!」

嬉しそうにルリを抱きしめながら言う保坂くんは、爽やかイケメンではなくただの猫好きイケメンだ。

「買い物とか、行きたいところとかある?」

「そうだなあ……」

保坂くんが考えるようにルリの顎を撫でながら首を傾げる。
ルリはさっきからされるがままだ。

「まぁ、明日考えたらいいか」

やがて、保坂くんはそう言うと荷物の中から部屋着を取り出したりと動き始めた。
こういう行き当たりばったりなところも、もう慣れてしまった。

「お風呂沸いてるから入っておいで」

私が声を掛けると、保坂くんは上機嫌でお風呂場へ消えていった。
ルリはお風呂が嫌いなので、大人しく脱衣所の前で丸まって待っている。

私は少し笑うと、保坂くんも一緒に寝ることになるベッドのシーツを替えたり、ルリのブラッシングをして時間を潰すことにした。



 暫くして保坂くんがお風呂からあがってきたので、ベッドで先に横になるように伝え、私もお風呂に入ることにした。
のんびりと入って出てきた頃には、保坂くんとルリは仲良く夢の中にいっていた。
私も部屋の電気を消して保坂くんの横にそっと潜り込むと、二人と一匹で眠るには狭いベッドの中で目を閉じた。