地元に戻ると、まだ秋の気配は訪れてはいなくて。
まだまだ残暑の残る昼間、私は雪菜と会っていた。
「どう?調子は」
久々に会うような感覚に、私は大丈夫という意味を込めて頷いた。
「雪菜はどう?」
会えばいつも、近況報告から入る。
私たちはお互いの状況を話しながら、いつもの誠二さんのカフェにいた。
「年明けには海外なんでしょ?結婚式の日取りは決まったの?」
「大体はね。っていうか、薫もでしょ?引っ越し、二月だっけ?」
「うん、ちょうど海外からのお客さんが落ち着くのが二月の終わりくらいだから、それくらいまでには引っ越し終わらせたいなとは思ってる」
「そっかー。結婚式はするの?」
「お父さんは絶対に花嫁衣裳みたいって言ってるけどねー」
「そりゃあそうでしょ」
雪菜は笑うと、コーヒーを一口飲んだ。
「まぁ私はそんなに結婚式には拘ってないから、話し合って決める」
「それがいいねー。うちはほら、彼氏の仕事の関係とか呼ぶ呼ばないでなかなか決まらない」
「あー、大変そうだねえ」
少し前では考えられないような会話だ。
私たちはあーでもないこうでもないと話しながら、雪菜の持ってきたブライダル雑誌を二人で眺めたりしていた。
多分、はしゃいでいたのかな。
「楽しそうだね」
誠二さんの声。
私たちは苦笑いして、ごめんなさいと言った。
「べつにいいよ。お客さんも今はいないしね。それにしても、二人ともよかったよね」
誠二さんが笑顔でクッキーを出してくれた。
頼んでいないから、サービスなのだろう。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、一口つまむ。
ここのスイーツは大抵誠二さんの手作りなのだから、驚きだ。
「おいしいー」
雪菜がにこにことしながらクッキーを食べている。
確かに、誠二さんの焼くケーキやクッキーは絶品だ。
「はぁ……ここのお菓子も暫く食べられないのかと思うと切ない」
「あはは、大げさだなー。里帰りくらいはしてくるんでしょ?なんなら、薫ちゃんが遊びに行くときに持たせてあげてもいいし」