夢を見た。
夢の中の私は、一人泣いている。
周りの景色は色を失って、まるでモノクロ写真の様にコマ刻みで流れていく。
誰かが私に、何かを言って、私はその言葉に恐怖を覚えて。
必死に逃げるために、明るいほうへ手を伸ばす。
光の先に居たのは……
はっとしてベッドから身体を起こす。
殆ど反射的に見た携帯の画面は、既に18時を過ぎ、窓の外にはほの暗い湖と黒々とした山々が佇んでいた。
二時間程眠っていたのか。
どんよりとした気持ちでベッドから立ち上がると、疲れてしまった身体を動かしてショルダーバッグを手に取った。
テーブルに放置してあった部屋の鍵を無造作に掴むと、あまり空腹も感じていなかったがとりあえずレストランに向かう事にした。
廊下を歩み、エレベーターを待っていると、賑やかな声が近寄ってきた。
小気味いい音と共にエレベーターが到着を告げ、私が先に乗り込むと、見知った顔が一人と、知らない顔が数人同じ様にエレベーターに乗り込んできた。
「あれ、薫さん」
私も驚いたが、相手も相当驚いたのか。
エレベーターに乗り込んできたのは、リエだった。
「リエちゃん」
アレ以来会うことのなかったリエは、ライブの時よりは幾分大人しい格好をしていたが、それでも目立つ子だった。
「お久しぶりですね、旅行ですか?」
あえて多くは聞いてこないあたり、リエも気を使ってくれているのだろうか。
私は小さく頷くと、リエの友人と思われる二人の少女に会釈した。
「こんにちは」
「こんにちは!リエのお友達ですか?」
二人の少女は気さくな感じで挨拶をしてきた。
私は少し安堵しながら、レストランのある階層のボタンを押しつつ微笑んだ。
「私の後輩つながりで、仲良くしてもらっていたの」
「ああー、そうなんですね」
彼女たちは納得したのか、頷いている。
レストランに移動しながら、お互い軽く自己紹介をした。
ハニーブロンドの少女が、エミカ。
金髪にブルーのメッシュを入れた派手目の子がユウ。
二人とも勇吾さんのバンドの追っかけをしていた仲間で、沙由とも面識があるそうだ。
今回は、沙由はこられなくて三人での旅行なんだと、リエがこっそり教えてくれた。
「でも、薫さんでしたっけ。一人旅ですか?」
「ええ、まあ」
「やっぱ、キャリアウーマンはやることもおしゃれですねー」
エミカがそう言って笑う。
「いや、でも薫さんって、結構鈍くて可愛いところもあるんだよ」
リエの助け舟とも言えない謎のフォローが入りつつ、私たちはレストランの前に来ていた。
レストラン『レイクサイド』
湖畔の新緑をイメージして作られたという入り口は、確かに湖のほとりに自生する木々の間のレストラン、というイメージだ。