当たり前だけど、保坂くんはホテルの人たちと部署は違っても顔見知りのようで。
フロントでの受付も部屋への案内も、滞りなく済んだ。

部屋に案内されてやっと落ち着くと、私は部屋に用意されていたお茶を淹れた。
なんだか喉が渇いてしまったから。

保坂くんにも注いであげると、彼も喜んで飲んでいた。

「無事に着いてよかったよ」

「初めて来たけど、素敵なところだね」

「俺は見慣れてるけどね。俺の実家は湖の向こう側だから、薫ちゃんが降りた駅とは反対方向だけど」

そう言って、窓の外に広がる湖を指差す。
湖を取り囲むように山が広がっていて、その向こうに僅かに町並みが見えた。

「あそこかぁ……」

「田舎だけど、いいところだよ」

保坂くんが私の頭を優しく撫でる。
なんとなく、だけど。ルリの気持ちがわかる気がした。
保坂くんの手は暖かくて、大きくて、撫でられていると落ち着く。

「今日の夜は俺仕事だけど、明日は親父達が薫ちゃんに会いに来るし休みもらったから、今日はゆっくり休みなよ」

「じゃあ、保坂くんがちゃんとお仕事してるか監視してるね」

「えー、やりにくいなぁ」

久々に側にいると、本当に安らいだ。
どこまでも、私に安らぎをくれる人。
陽だまりのような、そよ風のような。

大切にしなくちゃ、と改めて心に誓う。

「じゃ、俺寮に戻って夜の準備してくるよ」

「うん。あ、お部屋にはまた後で来るんだよね?」

「夜はこっちで寝るよ、課長もいいって言ってたし」

「わかった、また後でね」

手を振り、保坂くんを見送る。
一人になると、途端に寂しさが溢れてくる。
私は、こんなに弱かっただろうか。

このところ誰かしら側にいたから、余計そんな気持ちになるのかもしれない。

私はベッドに倒れこむと、携帯の画面を開いた。
時刻は16時過ぎ。

夕飯にも温泉にも少し早い。
眠るつもりはなかったのに、私はいつの間にかうとうとと眠りに落ちていた。