光陰矢の如し……とはよく言ったもので。
一週間というものはあっという間に過ぎてしまった。

保坂くんの勤める、『スターライトビュー』へ向かう道中。
私は電車に揺られながら流れていく景色をぼんやりと見つめていた。

この電車を降りたら、最寄の駅からは送迎のバスが出ている。
初めて行くわけだけど、さすがテレビでも特集されるホテルなだけはあって行き方のアナウンスはしっかりしていた。

ガタンガタンと規則正しく揺れる電車は、なんだか眠気を誘った。
さすがに、何も知らない土地で寝過ごすなんて事はするわけにはいかないので眠らないように戦っていたわけだけど。

既に見慣れた都会の景色はなりを潜め、広がるのは青々と茂る山々と、のどかな水田。
たまに見える小屋や民家は農家のものなのだろうか。
田園風景にぽつりぽつりと立ち並ぶ家々は、懐かしさと共に寂しさも誘う。

 やがて、駅への到着を告げるアナウンスが流れた。
目的の駅だ。
もう一度窓の外に目をやると、丘の上に日の光に輝く白い大きな建物が見えた。

『スターライトビュー』

あれが目的のホテルで間違いないようだった。

 駅の改札を抜けると、観光地の駅だからだろうか。
人通りが多く、駅前はきれいに舗装され飲食店やみやげもの屋などが数多く立ち並んでいた。
遠くには民宿や他のホテルも見えるから、それなりに観光客の多い場所なんだろう。

そんなことを思いながら、目的のバスを見つける。
予め予約しておいたチケットを見せて、添乗員にボストンバッグだけ預けて乗り込んだ。

「―……このバスは、20分程でスターライトビューへ……」

自動で案内を流しているのか、車内にはそんなアナウンスが繰り返し流れていた。
私は自分に用意された座席に座ると、またぼんやりと外を眺めた。

 やがて時間になったのか、バスが走り出す。
ゆっくりと街中を通り過ぎ、山道を登る。
それ程遠いわけでもないので、電車に揺られていた時間を考えるとあっという間に、それこそあっけなく着いてしまった。

「いらっしゃいませ」

私のほかにも数人の乗客がいたのだが、整然と並んでいたホテルの従業員達が手際よく彼らの荷物を運んでいく。
私も順番を待っていると、優しく肩を叩かれた。

驚いて振り返ると、そこには保坂くんが立っていた。

「あ……」

「いらっしゃいませ」

初めて見る保坂くんの制服と、お客さんに向けるような笑顔。
やっぱり、とても輝いていた。思わずめまいがするほど。

「ひ、ひさしぶり」

しどろもどろで答えると、保坂くんは途端に優しいいつもの笑顔になって私の荷物を持ち上げた。

「レストランの営業、午前のは終わってるからさ。待ってたんだよ」

「そ、そうなんだ」

なんだか恥ずかしかった。
心なしか、周りの若い女の子たちがひそひそしている気がする。
もう、慣れてしまったけど。