久しぶりの母の料理は本当においしくて、結婚してしまえば気ままに帰って来る事もそうないのかと思うと、少し寂しくもあった。

「ごちそうさま、すごくおいしかった」

「あら、大げさねえ」

母は嬉しそうに微笑むと、緑茶を淹れてくれた。
温かいお茶を飲みながらぼんやりとテレビを見ていると、心地よい眠気が襲ってくる。
私はあくびを一つ零すと、既にソファでルリと眠っている父を見た。

「あーあ、お父さんったら。すっかりルリちゃんにメロメロねえ」

母が毛布をかけてやりながら微笑む。
そういえば、ルリを飼う時に父にはとても反対されたっけ。
猫なんて懐かないから可愛くない!と言っていた父も、すっかりルリとは仲良しだった。

「お父さんね、薫が保坂くんと結婚するって電話してきた日、実はこっそり泣いてたのよ。酔っ払ってね、多分寂しかったのね。でも、お母さんが薫が幸せならいいでしょって言ったら、それなら俺も嬉しいなって」

「大げさだなぁ。一生会えないわけじゃないのに」

「男親だからかしらね、お父さん、やっぱり嫁に出すっていうのが寂しいのよ」

「お母さんは寂しくないの?」

「そりゃあ、可愛い一人娘がお嫁にいっちゃうなんて寂しくない親なんていませんよ。でもね、それ以上に嬉しいのよ。だって、薫が幸せでいてくれるのがお母さん一番嬉しいもの」

母の言葉を噛み締める。
どんな形でも、私が笑顔で居る事が、多分両親のためにもなるんだろう。

それは、結婚するとかしないとかではなく、私が今、幸せだって実感出来ているからであって。
たまたま私の場合、保坂くんと結婚するっていう結論に達したわけだけど。

そんな事を考えながら、母とゆっくり話す。
これもまた、私にとって幸せで掛け替えのない時間であることも、確か。
幸せって、一つじゃないんだって気がついて、また一つ私は素敵な事が増えたと思う。