翌朝、私は昼過ぎに友人と待ち合わせの場所にきていた。
大分前からの先約で、久しぶりに会う大学の頃からの友人だ。

「ひっさしぶりー」

明るい声でそう言うのは、佐々木雪菜(ささき ゆきな)。
私も笑顔で手を振ると、雪菜は微笑んだ。

「久しぶりだね。最近どう?」

「もー、相変わらずだよ。とりあえず、移動しようか」

雪菜と二人で昨日ぶりの誠二さんのカフェにお邪魔する。
誠二さんと雪菜も、もう顔見知りで、私たちを快く迎え入れてくれる。

今日は二人でボックス席を確保し、コーヒーとチーズケーキを注文し落ち着く。

「それで?今日はどうしたの?」

「ああ、うん。実はさ……彼氏にプロポーズされて」

雪菜の言葉は、嬉しそうではあるものの、どこか沈んでもいるように見えた。

「よかったじゃない、早く結婚したいって言ってたもんね」

「うーん……そうなんだけどさ。なんか彼、海外に転勤になるらしくって」

「え?じゃあ、結婚するなら海外についていくの?」

「そうなの!私英語とか出来ないのにどうしよーって、思わず返事保留にしちゃって」

雪菜が困った様に苦笑いを浮かべる。
私もつられて苦笑すると、運ばれてきたコーヒーに口をつけた。

「ねえ、もし薫ならどうする?」

雪菜の問いかけに、私は首を傾げて考えてみた。
もし、保坂くんが海外のホテルに就職するから着いてきて欲しいっていったら。

「……私なら、ついていくかな」

「へえ?彼氏の地元に着いていかなかったのに?」

「それは、言われなかったから。でも、着いてきてって言われたら、行ってたと思うよ」

「そっかー」

雪菜は何か納得したように頷くと、微笑んだ。

「うん、そうだよね。英語は今からちょっとずつでも練習すればいいし、やっぱり私も彼のこと大好きだし」

「もー、結局のろけに来たの?」

私が苦笑を浮かべると、雪菜は照れくさそうに微笑んだ。

「ところで、薫はまだなの?」

「まだって何が?」

「結婚だよ」

「うーん、どうなんだろう。私は別に急いでないんだけどね」

私が答えると、雪菜は盛大な溜息をついた。

「そんなんだから、保坂くんも中々煮え切らないんじゃないのー?男は少しくらい焦らせるくらいじゃないと」

「でも、急いで結婚してもなーっていうのもあるよ。今は保坂くんも仕事が楽しいみたいだし」

「どうして薫はそう、消極的かなー。こんなんだったら、いい男に薫取られても保坂くんは文句言えないぞ」

「取られるとかないよ、大げさだなぁ」

驚いて言うと、雪菜はまた溜息をこぼした。