間に割り込むように、おつまみのから揚げを差し出したのは誠二さんだった。
どこかトゲのある言い方に、私は首を傾げる。

「沙由がいければ」

私がそう答えると、誠二さんの表情が少し柔らかくなった。

「勇吾も、あんまり勤が心配するようなことを、薫ちゃんにすすめないように」

「わかってるよ」

ふてくされたように勇吾さんが答える。
そのまま、勇吾さんは仲間の元へ戻っていった。

 誠二さんは溜息をつくと、困った様に笑ってみせた。

「薫ちゃん、ライブ行くのもいいけど、あんまり勤に心配かけないようにね」

「心配、ですか」

「そう、心配。ライブは変な奴も多いからね。何かあったら、すぐに言うんだよ」

「はい、わかりました」

私が答えると、誠二さんは満足そうに頷いた。


 それから打ち上げがお開きになり、カラオケに誘われたけど、私は帰ることにした。

「送ってくよ」

カフェの外で、勇吾さんがそう言った。

「え、いいですよ。主役じゃないですか勇吾さん」

「誠二も言ってたでしょ。勤が心配するようなことすすめるなって。夜道は危ないからさ」

そういわれてしまえば、私としても断りようがないわけで。
仕方なくその申し出を受けることにした。

「先輩ー!また月曜日ー!」

お酒が入っているのか、沙由とリエが手を振ってくるのを笑顔で見送ると、私たちも歩き出した。
保坂くん以外の男の人と二人っきりで歩くのなんて、職場以外だととても久しぶりのことだった。

とっくに日付は変わっていて、人通りなんて無いに等しい夜道はライブの熱気のせいもあってかどこか寂しかった。

「あ、薫ちゃんさ。メアド交換しようよ」

唐突に言われた言葉に、私は首を傾げる。

「ほら、ライブのお知らせとかしたいし」

「ああ……」

言われるまま携帯を鞄から出し、メールアドレスの交換をする。

「次もまた来てくれたら嬉しいんだけどな」

「さっきも言いましたけど、沙由が来れる時ならいいですよ」

「手厳しいね」

カラカラと笑う勇吾さん。

「ま、俺としてはお食事とかも付き合ってくれたら嬉しいんだけどな」

「……お食事?」

「ライブの感想とかも聞きたいし」

「お食事はちょっと……」

私が言葉を濁すと、勇吾さんは微笑むだけで何も言う事はなかった。


 程なくして家に着いて、私たちはそのまま別れた。
熱気冷めやらぬまま、シャワーを浴びて早々にベッドに潜り込む。
疲れていたのか、私はすぐに眠りに落ちていた。