ライブが始まると、そこはまるで世界が違った。
音楽に詳しくない私でも、勇吾という人間の才能が偽りのものでないことはわかる。
確かに、これなら今人気があるというのも頷ける。

ホールはまるで、熱をもったイキモノのように熱狂の渦に巻き込まれ、暴力的なまでの音の波が人を飲み込んでいく。
私はその熱気にあてられながら、半ば朦朧として……そしてやはり取り残されながらぼんやりとライブを傍観していた。

観客たちは歓喜の声を上げ、ある種必死に勇吾達バンドメンバーに声援を送る。
それはまるで、一種の崇拝のような。


 気がつけばライブも終わりを向かえ、アンコールも終わり。
特に飛んだり跳ねたりしたわけじゃないのに、ほのかに気だるげな興奮とその残響が私を支配していた。
知らなかった世界。
この世界に熱中する人たちの気持ちが、少しわかった気がした。

「いやー、今日はいつもよりもノってましたよ、勇吾さん」

「ここから見てると全然違うんだね」

興奮した様子の沙由に、リエが頷いている。
私は会話にはついていけないので、ただ相槌をうつのみ。

「あ、先輩!周ちゃんからメールで、打ち上げの場所決まったっていうんですけど行きましょう!」

「うん、わかったよ」

沙由に誘われるまま、私は頷いた。
行動も思考もライブに支配されたように。
熱に浮かされる、とはこのことを言うんだろうか。


 移動先の繁華街から少し離れたそのカフェに、私は見覚えがあった。
誠二さんのカフェだ。

「やあ、みんなお疲れ様」

「誠二さん」

「薫ちゃん、ライブ行ったんだね」

「ええ、職場の後輩に声かけたら、このバンドのドラムさんと付き合ってるっていうんで」

「ああ、周二くんと」

こことも知り合いなのか、と思いつつ、私はボックス席で盛り上がる人々を背にカウンターに腰掛けた。
歳の離れた若い子達と話しているより、気心の知れた誠二さんと話しているほうが落ち着く。

 打ち上げに参加しているのは、バンドメンバーそれぞれの知り合いなんかもいて、いつもは静かなこのカフェも今日は賑やかだった。
沙由とリエも銘々誰かと会話を楽しんでいるのか、私の位置からは会話は聞こえないにしても楽しそうに見えた。

「薫ちゃーん」

「うわっ」

急に頬に触れた冷たいものに、私は思わず情けない声をあげた。
そっと手を当てると、冷えたビール瓶が添えられていた。

「あ……勇吾さん」

驚いて見上げると、背後に勇吾さんが立っていた。

「ライブどうだった?」

手渡されたビール瓶を受け取ると、私はそれには口をつけず頷いた。

「楽しかったです。初めて行きましたけど、勇吾さんすごい人気なんですね」

「いやー、道楽でやってるって言う人もいるけどねー。俺は楽しいからやってるし、やる以上は本気だからそう言ってもらえると嬉しいよ」

にこりと笑って隣に座る勇吾さんに、私も笑顔を返す。

「よかったらまた来てよ。チケットは用意してあげられるし、沙由ちゃん経由ででも直接でも」

「俺経由でもな」