「ま、麻由、ごめん。思ったより早かったな」
気まずそうに、佑くんが目を伏せる。そういう佑くんも粉だらけだ。
「実は麻由に食べさせようと、ケーキを二人で作るところだったんだけど、……その、翔太が小麦粉を散らばしちゃって」
「ほら、ぼく、ケーキみたいになった」
無邪気に言う翔太に、怒りを通り越して笑いがこみあげてきた。
「もう、食べちゃうぞ。翔太ケーキ」
「きゃー、やだー」
翔太が台所に戻って行く。動く道筋をすべて粉だらけにしながら。
「ごめん」
情けない顔をしてる佑くんを、抱き締めたくてたまらなくなった。
「いっぱいお掃除しなきゃね。……大丈夫、ケーキは買ってきたんだ。まずは皆で、お風呂が先かな」
そうして三人でお風呂に入って、掃除機で翔太を追いかけまわしながら掃除をした。
すっかり普段着になった私は、独身気分からいつもの主婦に戻って、それでもとても幸せな気分だけは変わらなかった。
夕飯には佑くんが作ってくれたオムライスを食べて、私が買ってきたケーキを皆で頬ばった。
「このケーキ、覚えてる?」
「え? なんだっけ」
「おいしいよー。ママー」
「これはね、翔太が生まれた日、佑くんが買ってきてくれたケーキ」
そういうと、思い当たったというふうに祐くんが頷いた。