はあ・・・はあ・・・・。
乱れた息を整えるのに数秒の時間を使う。
再び時計を見ると、8:10の文字がくっきりと浮かんでいた。
意外と早かったかも。
必死で走ってきたあの体力はなんだったのか、と微妙に後悔しながら、美沙は市立中学校のくせに無駄に大きな校門を潜っていった。
「あ!ミサミサー!」
美沙にとってはクラスメイトの一人、浜崎由香が走り寄って来た。
「おはよ」
淡白な声。
これはクラス一の秀才、安田遥の声だった。
「ミサミサおはよー!」
無駄に明るい佐々木佳織の声だ。
佳織は背がかなり高い。170cmは余裕で越しているだろう。自然と声も上から降ってくる形になる。
「・・・っミサミサって言うのいい加減やめてよー」
三つの声を一気に浴びせられ、美沙は内心失笑しつつも軽く返した。
(ミサミサ・・・か)
某人気漫画が映画化で更にメジャーになったため、ノリの良い三人はキャラクターが同じ名前だということを引き合いに出し、しばしば美沙をからかうようになった。
別に、迷惑になるほどのことじゃない。
嬉しくもないけど、それは普通のこと、だろう。
ただ、美沙はそう呼ばれることに、否、それ自体ではなく―――そんな風に一緒にいる事に多少の罪悪感があった。
(由香たちは)
線の内側にいる。
凄く近くにいる。
いわゆる、親友。
そんな風に、思っているんだろう。
だから、彼女らは美沙の事も線の内側に居させてくれる。
線なんて無いかもしれないけど、それでも、
凄く近くに、何の抵抗も無く、すんなりと、自然に。
でも、自分は違う。
線の内側になど、一歩だって踏み入れさせたことは無い。
少しも気付かれることは無く、心のすぐ近くに居させている振りをして。
そう、これからもずっと。