嫌な目覚めだった。


(また・・・)


前の学校での嫌な思い出が、今も、心にしこりとなって残っているのだろう。

何度も、何度も、同じ夢を見た。

落ち込みかけて、美沙は思い直す。


(いけない)


もう、こんな事が無いようにすれば良いだけの事だ。
それを考えるのに、何故こんなに心を痛める必要がある?
美沙は、半ば自己暗示ぎみに考えていた。




悪夢のことを忘れるためのように、美沙はわざと忙しく動く。
馬鹿らしいほどにベタな演出だが、転校初日らしくない事も承知し、パンをくわえて車へと焦って乗り込んでみた。


車で学校へと送って貰う間、美沙は昔の学校に思いを馳せる。
一年生の半ば、美沙を転校へ追い遣る事件があったのだった。

でも、もう思い出したくない。

美沙は思う。

(もう、しない)

あんな事、なんて、絶対に。

(変わる)

否、変えるんだ。

固く決心した美沙には、母の小言さえも聞こえなかった。


美沙は、教室の外の廊下に待機させられていた。

期待半分、緊張半分、それと少量の恐怖を混ぜた心境。
転校生の一般的な心持ちだろう。
そんな時には、時間はゆっくりと進むものらしい。
焦れったくなるほどに長い空白の後に、美沙は教室へ通された。


「!」


自身を見つめる、生徒達の、
目、
目、
目、
その光景に、自然と美沙の脳裏に今朝の悪夢が蘇る。

(いけない)

忘れる、ってついさっき決めたはずなのに。