キーンコーンカーンコーン

・・・と表現すれば良いのだろうか。
いかにも、な感じのオーソドックスなチャイム音が鳴り響いた。

しかし、誰も席に着くものはいない。
否、居ることは居る。ごく少数派だが。
がり勉が主だろう。
今は、目に見えて苛められている、もしくは省かれている者は居ないから。

居ない?

本当に、いないのだろうか?

違う。本当は居た。
ただ、ここには居なかった。
美沙が来るしばらく前から、いなかった。

いわゆる不登校児。名前は、笹渕美咲、というらしい。
顔も見たことが無かったが、美沙は「誰かが苛められて学校に来ていない」その事が悲しかった。

それでも、どうすることも出来ない。
それが、とても歯痒かった。


担任が教室に入ってきた。
皆は、慌てて席に着く。
担任のおばさんは、大して気にすることも無く話し出す。

誰も、話しを聞くものは居ない。
しかし、おばさんが発した一言で状況は一変した。

「じゃあ席替えします」

じゃあ、の意味は良く分からなかったが、教室はとたんに静まる。
このクラスでは、席替えは主にくじ引きで決められる。
面倒だという事と、運まかせという事に多少の不満は出ているが、教師の事情で勝手に決められるよりは良いだろう、という事で変わっていないらしい。

おばさんはどこからともなく袋を取り出した。
中には、もう既に籤が入っている。

教室内の熱気がにわかに高まる中、美沙はある望みを持った。

(会えるかもしれない)

あの、優しい声の主に。

(見つけられるかもしれない)

あの時、自分を救ってくれた声の相手を。

そんな、淡い望み。
叶わないかもしれない。
第一、会ったってどんな人かも分からない。
それでも、美沙はあの声の主と会いたかった。

それでも、すべては運まかせ。
そんな事も心の隅で分かっていた美沙は、たいして期待もしていなかった。
否、期待していない振りを装っていたのかもしれないけれど。