何も見えず、暗闇の中、少女はただ立ち尽くしている。
何も出来ない、己の無力さを感じながら。

ふと、

「ア・・・タ・・・―――!!」

切れ切れで意味も捉えられない罵りの言葉が、少女、美沙の耳に届いた。
何を言っているのかも分からないのに、それでも、何だか嫌な気持ちがした。


「アンタナンカ――――・・・!!」

あの娘は、誰?

靄がかかったように、よく見えないけれど。

整った外見を持つ〝あの娘〟は、しかし、醜かった。

それに気付いた瞬間、


「あんたなんか、死んじゃえばいいのに」

よく聞こえなかった声が、はっきりと聞こえるようになった。
それの姿も、はっきりと見える様になった。


「!」


美沙は、その言葉だけでなく、それの姿に衝撃を受けた。

(わたし)

美沙は、けして知りたくない、知らない方がいい真実へと近づいて行く。

(あれは、わたし)

人を嘲り、
暗い喜悦に顔を歪ませ、
高笑いする、〝それ〟は私。


(やめて)

それは、かつての私の姿。

(お願い)

人に流されて、友達だった者を裏切った、過去の美沙自身の姿。

(私は、もう、)

こんな事はしない、そう考えていても、辛さが変わるわけではなかった。



美沙の目の前で〝それ〟は当然のように親友だった少女を苦しめる。
かつて親友だった少女の言葉は、〝美沙〟にしか聞こえなかった。

それが、とても辛かった。


「裏切り者・・・・っ!!」


少女の悲痛な叫びは、〝それ〟には届かずに〝美沙〟の耳に入った。

残酷なほどに、はっきりと。

まるで、スピーカー越しのように、

反響して、

重なって、

何度も、何度も。