買い物を済ませた二人は車に乗り込む。
「家はどっちだ?」
「この店から大通りに出て細い路地を右です。」
発車させると、リコリスはすらすらと言う。
「細い路地、か。車は通れるか?」
「はい。大丈夫ですよー!」
その返事を聞くと、シャルドネは頷いた。

少しして、リコリスの家に着いた。
「ありがとうございます。」
「忘れ物はしていないか?」
「はい!」
そう言うと、シャルドネはドアを閉めて会釈した。
「おつかれさまです!」
リコリスが会釈を返すと、発車する。

それから数日後、シャルドネはロッテンマイヤー家に引き取られた。
屋敷はシャルドネが居た頃と変わらない様子だった。
「やぁ、随分と成長したね。シャルドネ。」
「はい。」
シャルドネは表情を変えずに返事をした。
男は口角を上げる。
「それで、君を養子にしたのは」
「政略結婚、でしょう?」
「話が早くて助かる。」
満足そうに男は言った。
「しかし、今回は違う。君には“フェイ”と名乗る、偽りの花嫁になってもらう。」
「花嫁?」
シャルドネは眉間に皺を寄せた。
「なーに。式を挙げて、披露宴では座っていればいいのだ。」
「事情を聞かせて頂きたい。」
「先日死去した跡継ぎはフェイという女だ。これは公にはしていないが。それ故に、婚約を決めた相手は当然男。残念ながら、娘は既に既婚。孫はまだ赤子だ。」
「それで、代わりに俺が表向きには花嫁として行くわけですか。……他の養子を貰えば良いのでは?」
そう言うと、男は愉快そうにする。
「男と結婚することが嫌なのは解る。だが、君のように頭が回るひとはそうそう居ないのだ。」
(利用価値がある。)
「……はぁ。」
訳が解らない表情を浮かべて、シャルドネは渋々承諾した。

相手と会ったのは式場だ。
煌びやかなドレスを纏い、ベールを目深に被るシャルドネの方に男が寄る。
先程まで居た使用人は下がった。
「フェイ、殿。」
過度に緊張する姿にシャルドネは反応をしない。
しかし、視線は向けた。
すると、男は逃げるように距離を取る。
「おちつけ、おちつけ。」
ブツブツと独り言を言う。
そういう様子から、女が苦手なのだと悟ったシャルドネは男に寄る。
「おい。」
ベールを少し上げて声をかけた。
「え?」
美しい女性がかける男のような言葉に戸惑いの声が出る。
「案ずるな。俺は男だ。」