「ユーベルヴェーク家はそこまで援助を求めていないはず。従う必要なんて……」
「それが、私の役目だ。」
淡々と言うとシャルドネは外に出た。
リコリスも後を追う。
「待ってください!そんな、あんまりです!!貴方は……」
振り向いた冷たい目にそれ以上は言えなかった。
「ロッテンマイヤー家はユーベルヴェーク程ではないものの、上官にあたる。機嫌は損ねないのが賢いやり方というものだ。」
そう言うと、去った。

「やはり、な。」
その声に後ろを振り返ると、クレアフィールが居た。
「その口ぶりからすると、応じる気か。」
「御存知なのですか?」
「話だけな。風の噂だ。」
リコリスに答えると、ため息を吐く。
「ロッテンマイヤーのやり方は汚いものだ。常に相手の弱味を握っている。」
「シャルドネさんの弱みを握られている、ということですか?」
「そうだ。」
クレアフィールは忌々しそうに眉を寄せる。
「恐らく、断れば貴様の部隊に危害を加えるだろう。そして、力づくで全て奪う。」
「何で、そうまでしてこんなことするのですか?」
「さぁな。何度も利用してきた駒は扱い方も容易だと、思い込んでいるのではないか?」
企んでいる者を馬鹿にしたようにクレアフィールは嗤う。
「……嘗て、全て奪われた。故に、もう失いたくないのだろう。」
「だから、自分が犠牲になるっていうんですか。そんな護られ方、嬉しくないです。」
「そんなやり方しか知らないんだよ。あの馬鹿は。」
そう言うと苦笑した。
「止めても聞かないだろうね。」
シャルドネが去った方を見て言う。
「……」
リコリスは少し考えて、シャルドネが去った方に体を向けた。
「失礼します。」
「行っておいで。」
クレアフィールは優しく背を押した。
「きっと……貴様にも、止められないのだろう。」
そう呟くと踵を返し、部屋に戻っていった。

「シャルドネさん!!!!」
少し離れたところに誰かとシャルドネが話しているのを見て、声を張り上げた。
「な、何だ。」
戸惑いを隠せない様子でシャルドネは瞬きをする。
「やっぱり、ダメです!!絶対、絶対、反対です!」
「同じことを言わせるな。それに、たった今、返事を届けてもらうところだ。」
「じゃあ、返してください!」
リコリスはシャルドネの前にいる男を見た。
「え?」
そして、持っていた手紙をひったくる。
男はきょとんとしている。