「では、先にどうぞ。別の用事から済ませてきます。」
「そう言わずに、一緒に行こう!な?」
「共に行く理由がな……」
そこで言葉を止めるシャルドネに男は不思議そうにした。
「シャルドネ〜〜〜!!!!」
正面から目にも止まらぬ速さで赤毛の女がやってくる。
シャルドネは慌ててひらりと身をかわすも捕まった。
辺りに書類が散乱し、男は大笑いしている。
「あっはっは!!」
笑いながらも、捕獲されたシャルドネの代わりに書類を集める。
「……ありがとうございます。ロラン殿。」
お礼を言うと、遣る瀬無い表情で女を見る。
「姉上様、状況を考えてください。」
「だってぇー!衝動が抑えられないんだもん。」
「抑えてください。」
「む・り♪」
「……」
でれでれと抱付く女にシャルドネは呆れる。
ロランはそんな二人を見守る。
「私に何か用事があるんだろー?シャルドネ〜〜!なになに?何の用??」
「書類を提出しにきました。」
「うん、えらいぞ〜〜!!よしよし!」
「いい加減にしてください。早く政務に戻らなければいけないのですから。」
「やーん!つっめたぁ〜い!!」
女はぱっと手を離す。
シャルドネはロランから書類を受け取った。
「それで、もしかして……それ全部が提出書類?」
「いいえ。九割です。」
「あまり変わらない……」
少し嫌そうにした後に女はシャルドネから書類を受け取る。
「それでは、失礼します。」
会釈をして、シャルドネは去った。

「……はぁー、やっぱかわいい。」
恍惚とした表情の後に、キリッとした顔になる。
先程とは一変して、気難しそうな厳格さを纏っている。
「では、貴様は何用か。」
「ん?今の光景を見に来た。」
「戯れるな。」
「冗談だって!」
ロランを女は鼻で笑う。
「閣下は相も変わらず、弟さんがお好きですな。」
「いいから本題に入れ。」
「そんなこと言わずに……」
そう言うと、ロランは真剣な表情になる。
「数年前の件……貴方にとっては最も辛い事件。」
「——、……それが、どうした。」
「その件で、再び問題が起こりまして」
「その件は解決しただろう。これ以上、どうするという。」
女は怒りを押し殺したように言う。
「詳しくはここでもなんですから。部屋に行って話しましょう。」
ロランと共に女は部屋に行った。

——数年前
当時、母の地位を引き継いだ彼女は指揮官を名乗っていた。