クレアフィールは一足先にスクエードを捕らえて外へ出た。

外に出て、シャルドネは更衣室に向かった。
「ちょっと!着替える前に手当しないと……」
「大した怪我をしていない。」
「いや、してるから。」
「ドレスで医者に罹るのは死んでも御免被る。」
そう言いながら、更衣室に入る。
「じゃあ、応急処置はさせてください。」
「自分で出来る。そう言う自分を案じろ。」
「私のはかすり傷ですよ。」
そう言いながら、ドレスの布を裂いた。
「これで、即席の包帯にはなりそうです。」
「そうか。」
そう言うと、ドレスを脱ぎ捨て、着替えを手元に置く。
「ほらー!沢山、怪我しているじゃないですか。」
「そうらしい。」
「らしい、って……他人事みたいに。」
「そうだな。」
さほど興味が無いというようにシャルドネは自身の傷を見遣る。
「痛くないのですか?」
「生憎、私には痛覚というものがない。」
リコリスは疑うような視線を送る。
「!」
手当てをしているうちに幾つかの古傷に気付いた。
そして、背中には酷く焼け爛れた跡があった。
「これ……」
「過ぎたことだ。どうでもいい。」
「よくないです!」
リコリスは傷を止血して、シャルドネの背に触れた。
「きっと、私には触れさせてもらえないような過去がおありなのでしょうね。」
「触れたいとも思わないだろう」
否定とも疑問とも取れる口調で言うシャルドネは上着を羽織る。
「上司である面よりも踏み入るな。」
そう言って歩き出すのをリコリスは目を伏せて見送った。
一緒に歩くことはしてはいけない気がした。
燃えるような色が消える。
そんな連想さえ浮かぶ。
「私が部下だから、ですか?」
シャルドネの腕を掴んで言った。
「だから、貴方を救おうとしてはいけないのですか?」
「救われる必要はない。」
縋るような問いに冷たく答える。
「……」
少し間があって、シャルドネはリコリスの頭を撫でた。
「私は救いは要らない。これは救うとかいう話ではない。……この人生を全て拒絶しない。それが私の生き様だ。」
「だけど、貴方は寂しそうです。……傷ついて、それでも自分を守らない。」
「ふ、そう見えるか。」
悲しそうなリコリスにシャルドネは背を向ける。
「寂しくない。傍に、隣で歩く部下がいるからな。」
そう言うと、外へ出た。
「部下、って……」
自分のことだと自覚したリコリスは頬を染めた。