此処は人間と鬼が住む世界。

人間といっても“魔法使い”や“幽霊”などと種族は様々だ。

鬼もまた、様々で、“妖怪”や“鬼神”などといる。

細かく分かれていて、それがまた混在しているため、一昔前までの差別や偏見は皆無に等しい。
だが、鬼が人間を捕食したり、その逆もあったりと物騒な世の中ではある。

燃えるような橙の髪。
癖がある毛先。
颯爽と歩く姿は目を引くものがある。
カツカツとヒールを鳴らす音に愛想が悪そうな表情の男。
無愛想ではなく、生真面目なのだということは手元に有る書類が主張している。
「シャルドネ。」
呼ばれると男は止まった。
「何の用だ。」
「先日の書類、お目通し願えますか?」
相手はシャルドネと呼ばれた男の部下らしい。
「解った。」
そう言うと、シャルドネは少し屈んで手元に山積みにされてる書類の一番上を顎で指し示した。
「悪いが、置いてくれ。」
「そんな、持って行きますよ。半分、貸してください。」
「良い。順番が解らなくなると困る。」
そう言われたので相手は書類を一番上に置いた。
「こんな沢山……大丈夫なのですか?」
「そう思うなら、お前がやるべきことをしろ。」
「つめたーい。」
シャルドネに拗ねたようにした。
「リコリス。」
嗜めるように厳しく呼ぶ。
「はぁーい……政務に戻りまぁーす。」
リコリスと呼ばれた部下は口を尖らせて行く方向を変える。
「そうだ。」
思い出したようにシャルドネは背に声をかける。
「30分後程に俺も戻る。」
「コーヒーですか?」
「紅茶だ。」
飲み物が欲しいと頼むことを知っているリコリスは尋ねる。
「レモンとアプリコットとアッサムどちらにします?」
「ダージリンは切らしていたか?」
「確認してみます。」
「無ければアプリコット。」
「りょーかい!」
リコリスは敬礼して去った。
すると、入れ違うようにして男が来た。
「優秀な部下を持ってるみたいだな!」
「書類を取り落とすと困るので叩かないでください。」
バシバシと叩く男にシャルドネは冷静に言う。
「うちのとこに引き入れようかなー?」
「断固お断りします。」
「冗談だって!ったく、冷たいなー。」
男は笑う。
「貴方はこちらにに何の用があって着いてくるんですか?」
「ん?」
シャルドネに男はとぼける表情をして、前を見る。
「ユーベルヴェーク閣下に用があってな。」