さよなら、その先へ




私は今日、





ーーー彼氏に振られる。







私、折戸詩花(おりと しいか)が、彼、坂口透悟(さかぐち とうご)と付き合い始めたのは4カ月前。


透悟くんが私に告白してくれて、ずっと好きだった私の返事はもちろん「はい」。


そこから付き合うことになった。



明るくて、優しくて、気さくでクラスでも人気者の透悟くんは更に顔もかっこよくてすべて完璧で、私にはもったいなさすぎる。


現に私と付き合っている今でも、透悟くんはよく告白されている。



そんな私はいたって普通。


周りより少し小さい身長。ちなみに151cmしかない。


生まれつき白い肌。日に焼けたらすぐ赤くなっちゃうのがすごく嫌なの。


容姿は普通よりは少しはいいかもしれないけど、全然普通。



なによりも私の1番の短所。


それは思ったことを口に出して伝えられないこと。


心の中ではこう言いたい!って思っていることがしっかりあるのに、いざ声に出して言うとなると声が出なくなる。


友達と話していてもそんな感じになってしまう。


そして曖昧に笑ってごまかす。




そんな自分がすごく嫌だ。


友達だって、ちゃんと思っていることを伝えられるのは1人しかいない。


私のことを理解してくれている唯一の人、豊川菜子ちゃん。


菜子ちゃんは私と違ってサバサバしていて、しっかりしている。


そして、友達も多い。


私の憧れ。あんな風になりたいなっていつも思う。


菜子ちゃんがいなかったら、私は高校生活を送れていなかったと思う。



でも、そんな私を透悟くんは好きと言ってくれた。


すごく嬉しかった。


夢かと思った。



告白されたあの日を、今でも鮮明に思い出せる。



すごく、すごく、透悟くんが好き。




でも。


彼は今日、私に別れを告げる。



「詩花、一緒に帰ろ」



さあ、カウントダウンの始まりだ。





透悟くんの変化に気付いたのは1週間前。


それまでと私に向ける笑顔がどこか違った。


最初は気のせいかと思った。


だって、それ以外はいつもと同じだったから。


でも時折見せる表情がいつもと違う。



私はなかなか思っていることを口に出せない分、人の気持ちの変化を感じとるのがすごく敏感だ。



だから、多分。


私の予感は当たっていると思う。



私のこと、もう好きじゃなくなっちゃったのかな?









「詩花、別れよう」







ほら。




やっぱり彼は、私に別れを告げた。








透悟くん。


あなたにとって、私はどんな彼女でしたか?


透悟くんの隣にいたとき、私に対する気持ちをすごく感じた。



私のことを好いていてくれてるって。


大切にしてくれてるって。



行動から、言葉から、眼差しから全てから伝わってきたよ。



でも、私は。


緊張してばっかりで、思ったことを何一つ言えないで。


話だって自分からしたことあったっけ?


いつも受け身でいたよね。



そんなんで、透悟くんの彼女なんて言えるのかな。


だから透悟くんもそんな私にいい加減、嫌気が差したのかな。





「あのさ、詩花はさ、俺のこと好きだった?」



私が何も言わずにいると、透悟くんが私に聞いてくる。


その顔は私が俯いているせいで、見ることができない。



好きだった?って、そんなの好きにきまってる。大好きだから付き合ってた。


好きじゃなかったら付き合ったりしない。



それに誰でもよかったわけじゃない。


透悟くんだったからこそ、付き合った。



なのに、それもちゃんと伝わってなかったのかな?



この4カ月間はなんだったんだろう?



透悟くんと付き合えるということが嬉しくて、透悟くん本人をきちんと見ることができていなかった。


形に満足して、中身のなかった私。



今更、気付いても、遅いか。



恐る恐る、顔をあげる。



透悟くんは今どんな顔してる?