———あたしは今、無我夢中で廊下を走っていた。早く目を逸らさなきゃ、早く距離を置かなきゃ、現実から背かなきゃ…。

ふと足を止めると、目の前には家庭科室があった。

恐る恐る足を踏み入れてみる。

そこには、綺麗なシンク、キッチンが並んでいた。

「食料調達ぐらい、しないと…。」

準備室へ入り、冷蔵庫を覗く。

「…ひぃっ!!!」

中には、目玉が一つ、入っていた。
こちらを凝視しているように思える。

周りが暗くてよく見えないが、心なしかあたしの瞳の色にそっくりだ。

…作り物、模型のようなので、恐る恐る触ってみようとする—

—ガッ!ドンッ!!

肩をつかまれ、無理やり振り返らされ、襟を引っ張られ、家庭科室へ放り出される。そしてあたしに馬乗りになる形で何かは乗っかって来た。

「な、何?!だ、誰…」

『誰か』は、何も言わず、ただ、腕を振り上げた。殴られるのだろうか…
刹那、冷蔵庫の光が照らされ、その人が持っているものが妖しく光る。

…アイスピックのようだった。

あたしは、あまりに唐突なその状況に、叫ぼうにも声が出なかった。

ただ、その人が腕を振り下げると同時に、要や水帆の名前を叫んだ。

一瞬、腕がピタリと止まった気がしたが、左目の辺りに激しく鋭い痛みを感じ、意識は遠退いていった…