「…じゃあどうしたらいいの。」
ポツリ、と呟いた言葉が空気を振動させてクラス中に広がる。
下を向いていて表情はよくわからないけれど、声から伝わる掠れた震え。
「…私はっ…!何も無くなったの…!クラス内ではみんなどう思ってるかわかんないけど、私なんてただの敗者で…!!家だってバタバタばっかしてて、危険な状態だって…っ、どうしろっていうの…!!」
叫ぶように言って、顔を上げた理緒に息を呑む。
顔をしかめながら喋る理緒は苦しそうだった。
……それに、泣いていた。
初めて見た、理緒の涙。
「…どうしたらいい、なんてそんなの分かんないよ。私には経済回復できるほどの力なんて持ってないもの。」
所詮は中学生。
大人の世界の仕組みなんて、ほんの一部しか分かってない。
…そんな私達が理緒の家の危機を回避させられるのは不可能だ。
私が言うと、悲しそうに唇を噛み締めた理緒を見て言葉を続ける。
「それに、やっぱり理緒は間違っている。…私は理緒を敗者だなんて一回も思ってない。クラスのみんな、理緒のことそんな風に考えたこと一度もないよ。」
目を驚いたように見開いた理緒と、改めて視線が交わる。
…家の危機は私にはどうしようもない。
でも、このクラスに理緒の居場所を見つけることくらい、…出来るよ。
「ふふ、今回も夢空ちゃんの言う通りかな。…理緒ちゃんのこと、そんな風に見たことないよ。確かに私も酷い目に合ったけど、クラスが変わったことで理緒ちゃんが負けた、なんて思わない。」
「…そうだよ、クラスが変わったのが理緒の負けな訳がないでしょ。…理緒は、このクラスの一員なんだから。」
渚沙が腰の後ろで手を組んで安らぐような声で言ったことに私も静かに同意すると、理緒が涙を拭ってクラスを見渡す。
それに応じるようにクラスのみんな、私達の言葉に強く頷いていた。
…大丈夫、理緒はひとりじゃない。
私達が変わったように、理緒も変われる。