「な、ななな何であんたがここに...」
「そのブレザー。取りに来た」
は?
「だからそのブレザー、俺の。間違って笹原の席に置いた」
はああ⁉︎
「でもこれ、健二の匂いするし...」
「嘘。やっぱアンタ、健二好きなんじゃん」
う、嘘⁉︎
待って待って待って。
めっちゃ恥ずかしい。
どうしていいか分からず、そのブレザーで顔を隠す。
よりによって、同じクラスで同じ部活で隣の席の奴に、知られたくない秘密を知られるなんて...‼︎
するとそののっぽは私の頭にポンと手を置いて、
「どんまい」
殺す。
ほんと死んでくれ。
その刹那、拳が野口の顔に直撃。
したと思ったのに。
「アンタ、本当にすぐ手出すよね」
生まれて初めて私の殴りを手で止められた。
やばい。こいつ何者なんだ。
「傘、忘れたから取りに来ただけ」
「傘?」
窓を見ると、いつの間にか雨が降っていた。
最悪に最悪が重なった。傘持って来てないし...。
「好きな人のために仕事を一人で背負うなんて、女ってつくづく分からない」
「煩い。早く帰れば」
「傘、持ってないんでしょ」
「だから何」
するとこいつは机に置かれた日誌を手に取って、
「手伝う」
「えっ?」
「帰り、傘入れたげる」
「はあ?」
「そんな顔してる女、放っておけないでしょ」
「えっ」
私は、泣いていた。