健二が綾奈のことを好きなのは、薄々気がついていた。
長年の付き合いからの勘なのか、綾奈と出会った瞬間からのトキメキがあったようで。

元々アイツには、女=さばさばした男勝りなやつという概念があったらしく、The 女の子な綾奈を見たときは凄い衝撃があったのだろう。
まあ幼馴染がこんな可愛くない女のせいなのは分かってる。
だけど今更、女の子らしくなるために努力しようと思わない。

男共の高嶺の花である綾奈と付き合ったとしてもいい。
綾奈が純粋に素敵な女の子で、健二が素直で優しい奴だと知っているから。
二人が幸せになればいい。

私は、健二の幼馴染として一生過ごせればいい。
友達以上で恋人未満。

それでいい。






「なあ、ハル。俺、綾奈ちゃんに告りたい」

「は?」

「一週間後に告るつもり。だから今週、一気に近づくために手伝って」

「はああ⁉︎」


昼休み。
今週、日直に当たっている私と健二は、理科室にノートを届けたところだった。

待って待って待って。
いきなり過ぎじゃん?
物事には順序というものがあって...。


「だ、第一、あんたまだ綾奈と喋ったの数回じゃん⁉︎ 私の幼馴染程度にしか認識されてないでしょ」

「でも、サッカー部でマネしてるから、先輩が凄い可愛がってて取られたくないんだよ!」


そう。
偶然にも、健二はサッカー部で綾奈はサッカー部のマネージャー。
部活が一緒なのだ。

健二がすぐ行動に出すタイプなのは知ってるけど、入学してニヶ月経ったくらいで告うのは早過ぎでしょ⁉︎


「でも、もう少ししたら学祭もあるし、その時でいいんじゃ...」

「いや、来週告う! 有言実行の男、笹原 健二は勇気を振り絞って告りまーす‼︎」

「...好きにすれば」

「え、ちょ、ハル冷たくない?」


ほんと、健二の馬鹿。
健二が幸せになればいい、とかかっこつけてた私のほうが、もっと馬鹿。

嫉妬なんかしてない。
胸なんか痛くない。

私は大丈夫、大丈夫。


「頑張れ、健二」

「おう、サンキュ」


私は大丈夫。