「ごめん綾奈。今日、私日直だから先帰ってて」

「うん、分かった。ばいばーい!」

放課後。
今日は少し気分が良い。

「げ。今週、ハルと日直?」

健二と二人で日直だから。

「そうだけど、文句ある?」

「いや、別にー」

と言いながら、教室を去る綾奈の小さな背中を名残惜しそうに見つめる健二。
たかが日直ごときに、ぐじぐじこだわるなっての。


「そんなに綾奈が良かったの? あー、そっか健二は綾奈のことーー」

「ばっ、やめろって!」


咄嗟に慌てた健二が、私の口を押さえる。
その手が軽く唇に触れた。

複雑な気持ちになりながらも、恥ずかしそうな表情が愛おしい。
頭を掻きむしり、周りに見られていないか気にする仕草は、彼の定番。
普段は堂々としてるのに、こういう時に限って弱くなるのが可愛い。

少しすると、教室には二人っきりだった。
幼馴染故なのか緊張感は全く無い。
というか、まず向こうは私が女だとすら意識していないだろう。


「綾奈、好きな人いないって」


向かい合わせになって、私は日誌を、彼はプリント整理をする。
しんとした空気の中、ため息がはっきりと聞こえた。


「まじかよー。俺、眼中に無いってこと?」

「さあ、でも違う男が好きなのよりマシでしょ」


姿勢が雪崩のように崩れ、嘆く健二。
私はその頭をそっと撫でる。


「大丈夫だって。健二が良い奴なのは、私が保証するから」

「...サンキュ。お前も好きな奴出来たら、この健二パパに言えよ」

「はいはい」


馬鹿。
言えたら苦労しないっつーの。